後ろの女子に指ホッペされたら、好きになってしまいました。

椎野 守

第一章

1 プロローグ

 授業中、後ろの席に座っている女生徒から、肩をトントンとたたかれた。


 何だろうと思って後ろを振り返ろうとすると、ほっぺに何か細い棒状のものが突き刺さる感触を覚えた。


 突き刺さると言っても、細くて鋭利えいりな先端を持つ物体、例えば千枚通せんまいどおしや、削りたての鉛筆、シャープペンの芯といった、実際にやられたらちょっとしたケガを負うような物体が突き立てられたというわけではない。


 むしろ柔らかい、決して痛いという感触を受けるようなモノではないということは、直ぐに理解できた。


 と同時に、後方からフフッと小さな笑い声が聞こえてきた。


 先生には気付かれず、かつ僕には確実に届く絶妙ぜつみょうなボリューム調整である。


 僕のほっぺには、1つ後ろの席に座る女生徒の人差し指が突き立てられているため、それ以上振り返ってその表情を確認することはできなかった。


 しかし、おそらくイタズラっぽい小悪魔的な微笑ほほえみを浮かべているであろうことは、容易よういに想像ができた。


 ここで咄嗟とっさに反対側から振り返って、その女生徒に「いい加減にしろよ」という意思を、表情とくちパクをもって伝えてやろうと思ったりもしたのだが、おそらくそんな行動はとっくに先読みされていて、反対側のほっぺにも同様にその女生徒の人差し指が突き立てられるであろうことは、さして頭の回転が速い方ではない僕にも、即座そくざに想像することができたのだ。


 なぜなら、全く同じシチュエーションを数日前の授業中にくらっており、見事両頬りょうほほに人差し指を突き立てられるという経験を、僕はすでに持ち合わせているからだ。


 僕は、ゆっくりとした動作で元の姿勢しせいに向き直り、何事も無かったように先生の授業へと戻ることにした。

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