第78話 殴り合って、対等になろう


「来ましたわね、ミリア」


「二人共頑張れー!」


「普段は仲間同士だが、競い合うのは良い事だ。楽しみにしているぞ」


 もう既に、皆揃っていた。

 会場のど真ん中で仁王立ちしているエターニアに、観客は二人。

 楽しそうにはしゃぐアリスと、ウンウンとどこか嬉しそうに微笑んでいるガウル。

 う、うわぁ……これはマジで情けなく負けられなくなってしまったぞ。

 あの銃で、初手からスパーン! とか打ち抜かれてみろ。

 私、多分リーダーの威厳とか一切無くなるぞ。


「ホラ、さっさと並べ。術を掛けるぞ、今回は少々特殊なモノを使うがな」


 面倒くさそうに言い放つ先生が、私達に対して防御魔法を掛けてくれる。

 前回の試合より長めに術を使っているので、とんでもない固さにしてくれている筈だ。

 コレで安心。

 私の攻撃でエターニアに穴が開く事も無ければ、相手の攻撃で私が消し炭になることもないだろう。

 こっちは、攻撃出来ればという条件が付く訳だが。


「はぁぁぁ……」


「あら、自信がありませんの? 最近は大活躍だったと言うのに」


 向こうは此方の怒りを買おうとしているのか、試合直前でも煽って来る訳だが。

 生憎と、そんな元気はない。


「改めて、私は後衛術師らしい後衛術師だって気が付いただけよ……仲間が居ないと、なぁんも出来ないわ」


「……調子が狂いますわね。そんな様子で私に勝てますの? シャキッとしなさいな」


 対戦相手から活を入れられてしまうという訳の分からない状況。

 この状態で始めるんだよねぇ……うわぁ、嫌だなぁ。


「術者同士の勝負と言う事もあり、ある程度距離を置いてから始める。両者背を向けて歩け。合図と同時に振り返り、試合開始とする」


 此方の気持ちを、先生は一切くみ取ってくれず。

 さっさと済ませろとばかりに進行していく決闘ごっこ。

 いや、うん。

 エルフ先生から見たら本当に“ごっこ”なんだろうけど。

 もう少しこう、慈悲の心を。


「背中を合わせたなら、とっとと歩け。武器は準備しておいて良いぞ」


「あ、はい……」


 と言う訳でローズさんから頂いたマジックバッグから、これまたローズさんに頂いた杖を二本取り出す私。

 改めて思うけど、もはや頭上がらないよね。

 私今後、彼女にどんな顔をして会えば良いのか分からないんだけど。

 褒め称えたり懐いた様子を見せると、追加が来そうで怖いんだけど。

 とか何とか、もはや関係ない事を考えながら歩き出した私達。

 あぁもう、止めだ止め。

 こっちだって即効性のある魔法が使える様になったんだ。

 だったら。


「始めっ!」


 速度勝負に出るのみ! ……なんてね。

 そんな事やる訳がない。


「んなぁっ!?」


「アンタなら絶対撃って来ると思ったわよ! ブワァァカ! って、ちょっとぉ!? 最初から“連射式”を装備してるのは卑怯でしょうが! 拳銃から始めて、徐々に組み替えなさいよ!」


 試合が始まった瞬間地面に転がり、まずは防壁を張った。

 顔の近くを相手の魔弾が通り過ぎたので、正面切って戦っていれば初手で負けていた事は確定。

 私が防壁を張る前に、相手の攻撃はこっちに届いていたって訳だ。

 とはいえ……言葉にもしたが、アイツ最初から連射式に組み替えている。

 ズルい! いや実戦だとそんな事言っていられないってのは、分かっているんだけど。

 その後も連射式による魔弾は途切れず、相手は詠唱を始めている。

 あぁもう、マジで初手を回避出来たのが奇跡。


「相っ変わらず、ズルい武器使ってるわね! 速すぎでしょソレ!」


 恨み言を放ちながら、会場内に土の壁を幾つも発生させた。

 コレで相手は射線を確保出来ない筈……なんて、思ったのだが。


「ぶち抜きますわ!」


「ちょっとぉぉぉぉ!?」


 ズドンと一発、デカいのが飛んで来た。

 私が作った土壁に対し、まとめて大穴を開けてくれたではないか。

 うわ、やっばい。

 ウチの後衛アタッカー、やっぱ威力が桁外れですわ。

 とかなんとか思いつつも、残った土壁の間を匍匐前進で進み始める。

 不味い不味い不味い、アレ視界に入った瞬間に仕留められるって。


「逃げても無駄ですわよ」


 そんな台詞が聞えて来たかと思えば、ジャコッとどこかで聞いた事がある音が此方にも響いて来た。

 間違いなく、“拡散式”。

 もしもアレに詠唱が加わり、彼女の大火力をコピーした散弾が飛び散るとなれば……不味い。

 コレ、終わったかも。


「逃げ隠れするのがミリアでは無かった筈ですわよ! さっさと出て来て下さいませ!」


「おっまぇ! ふざけんなよぉ!? これで出ていく馬鹿が居る訳無いでしょうが!」


 大火力も大火力。

 ソレが複製、拡散された威力の攻撃がそこら中にまき散らされた。

 待て待て待て、駄目だってこれは。

 必死で魔術防壁を展開しているが、普通に死人出るって。


「あぁぁもう! “ホワイトアウト”!」


 もう、出たとこ勝負。

 私の姿を隠すだけとなった土の防壁はもはや意味を為さず、こっちには準備の時間が必要となればコレしかない。

 全部視界を奪ってしまえ。

 会場全体に吹雪が発生し、両者の視界を奪っていく。

 この間に準備するしかない、早く攻撃に転じなければ。

 そんな事を思いながら、攻撃魔法を準備していれば。

 キラッと、視線の端で何かが見えた。


「そこだっ!」


 水弾を結構な勢いで連射してみれば……なんかキンッて、金属音が聞えた気がするんですが?


「見つけましたわ、ソコッ!」


「どわぁぁっ!」


 何故か逆側から、エターニアの攻撃が振り注いだ。

 いやいや、どう言う事!?

 何か光ったじゃん今! さっきのなんだったの!?

 結局此方の情報不足になってしまい、周囲に再び大量の土壁を作ってから吹雪を止めてみれば。


「ちょっとぉ!? アンタ金に物を言わせて魔道具使ってるわね!? ソレ! そこに転がってるの! デコイでしょ!」


「オーホッホ! 戦場において道具を使うのは当然。そして試合内容に、魔道具の使用を禁止するという項目は有りませんわ。つまり……こういう事ですわ!」


 高笑いを浮かべたお嬢様は、空中に幾つも筒状の魔道具を放り投げていた。

 あれって、もしかして。


「ぼ、防壁! あぁぁぁクソッ! コレだから金持ちを相手にするのは嫌なのよ!」


「何とでも言いなさいな! 私は今、貴女に勝つ為に全てを使っているだけですわ!」


 カッ! と投げ放った物体が光ったかと思えば、続いて爆発したソレからは何やら細かい物体が飛んで来た。

 一応防壁で防いだが、近くに刺さったソレを確認してみれば……おいコレ、釘だ。

 ソレがとんでもない勢いで、広範囲に発射されたらしい。


「アンタマジでふざけんじゃないわよ!? 私を殺すつもりな訳!?」


「それくらいの覚悟が無ければ勝てないと判断したまでですわ! そして今回は決闘! 先生の防御魔法をありますから、安心して死んでくださいまし!」


「死ねるか! 死んだらマジで終わるわ!」


 叫びながら反撃し、此方も大技を用意する。

 大丈夫、ギリギリ間に合う……筈。

 多分! いや間に合ってくれ!

 そんな事を思いながら水分を集めて圧力を掛け、ブラックワンドの準備をしてみれば。


「もはや隠れていても場所が分かりますわよ! さぁ、勝負ですわ! ミリア!」


「だぁぁぁもう! やってやるわよ!」


 両者共武器を構え、多分同時に引き金を引き絞った。

 それくらい、真正面からのぶつかり合い。


「“狙撃式”による一点集中……放て!」


「“ウォーターカッター”ァァァ!」


 私達の攻撃は矛先をぶつけ合い……なんて、恰好良い状況にはならず。

 エターニアの攻撃は此方の肩に直撃し、そんでもってこっちの攻撃もまた、相手の右肩にぶち当たったらしい。

 いよしっ、利き手を潰したのならこっちの勝ち。

 私は二本の杖を持っている。

 後は動く方の腕で決め手を放てば、まず負ける事は――


「あ、あれ?」


 視界がグラグラ揺れ動き、物凄く気持ち悪い。

 ヤバイこれ、魔力切れだ。

 口を押さえ、どうにか相手を睨んでみれば。


「や、やりますわね……まさか先生の防御があっても、この威力とは」


 エターニアもまた、左手で銃を掴みながらヨタヨタと此方へと向かって来ていた。

 ヤバイ、このままじゃ負ける。

 意地でも脚に力を入れ、残った杖を掴んで相手へと歩み寄った。

 視界がブレる、このまま魔法を放った所で当たらないのがオチだ。

 だったら、近付いて確実な一撃を。

 なんて、思っていたのに。


「私の、勝ち……ですわね」


 フラフラしている間に、拳銃状態に戻した銃口が私の顎に押し当てられた。

 あぁ、負けてしまった。

 そんな事を考えながら、ため息を溢しそうになってしまえば。


「とは、いかないみたいですわね。ははっ、なんですかその武器。そっちも引き金を引くだけで魔法が発動するのですか? だったら、勝ちとは言えませんわね」


 無意識の内に、私も彼女に向かって杖を向けていたらしい。

 そして、残っていた方の杖は“ブラックワンド”。

 確かにこのまま引き金を引けば、私の貯蔵魔力関係なく攻撃が出来る。

 弾丸に詰まっている魔力が、まとめて相手に襲い掛かるだろう。

 だからこそ、グッと奥歯を噛みしめ……踏ん張った。


「負けを認めたら? エターニア」


「そっちこそ、いい加減敗北を認めて貰いたいモノですわ」


 二人揃って、額をくっ付けるみたいにして。

 ニィィっと口元を吊り上げてから、武器をお互いの急所に突きつけ合っていれば。


「これ以上試合続行を許すと思うか? 馬鹿者共。今回の試合は、引き分けとする」


 いつの間にか近くに来ていたらしい先生が、私達の武器を取り上げた。

 えぇ、ここで?

 とか思ったりもするが……正直、助かった。

 もうこれ以上、立っていられない。

 ちっくしょう、前は最大火力が何発も打てたのに。

 今回は他の術を忙しく使ったから、一発撃っただけでヘバってしまった。

 この結果は自分でも情けないし、まだまだ術へ理解が足りないって事なのだろうが……。

 でも、私と同じように。


「ハハッ、流石にもう立っていられませんわ」


 エターニアもまた、ぐったりとその場で膝を着いた。

 まるで二人して寄り添う様にして、脱力していく。

 流石にもう、無理だ。

 というかコレが実戦だった場合、私達は全く役に立たないって事になるのだろう。

 ほんと、まだまだだ。

 これぐらいでヘバっていては、討伐隊に加わっても足を引っ張ってしまうかもしれない。

 それどころか、学園の試合だったとしても。

 私は結局、戦線に立てば足を引っ張ってしまう。

 それが、本当に良く分かった。


「マジで、まだまだだ。私……全然だわ」


「それはこちらも同じですわ。お互い未熟であるからこそ、パーティを組んでいるのでしょう? 一人分に成れないから、集まって一人分の仕事をこなす。学生らしいではありませんか」


「確かに、ね」


 二人してくっ付いた状態で、呆れた笑い声が零れてしまった。

 確かに、学生らしいのかもしれない。

 大人になり切れなくて、一人分にはなれなくて。

 それでも、競い合う。

 これこそ学生の本分と言って良いのかもしれないが、この結果は何とも言い難い。


「これでは、無理に聞き出せないではありませんか」


「こっちこそ、言い訳みたいに話せなくなっちゃったじゃないの。どうしてくれんの、コレ」


 なんて会話をしていれば、残るパーティの二人が駆け寄って来てすぐさま治療を開始してくれた。

 とは言っても、今の私達は攻撃が当たった箇所が痺れているくらいで。

本格的な外傷は……あれ? ちょっと待て。

 あれだけ特大魔法を食らった筈の私の肩も無事だし、精霊魔法を食らった筈のエターニアも傷一つ無い。

 でも、腕が動かない。

 まてまてまて、何だコレ。

 思わずエルフ先生の方へと視線を向けてみれば。


「特殊な魔法を掛けると言っただろう? その影響だ。痛みはそのままに、魔力が傷を肩代わりする様な出来損ないの魔法。まぁ、その分使用された者の魔力消費は多くなるがな。演習では便利だろう? 何たって、“痛み”は残るからな。拷問などには検討されているらしいぞ?」


 とんでもない事を言い放ちながら、先生がニッと口元を吊り上げた。

 こ、このクソエルフ……普通の防御じゃ無くて、また昔の魔法を使いやがりましたか。

 どうりでいつもより魔力切れが早い上に、肩に風穴が空いたかの様な痛みがずっとすると思いましたよ。

 お陰で片腕上がりませんよ。

 だというのに、ニヤニヤニヤニヤ。

 性格悪いぞウチの師匠! 思いっ切り本人に干渉するタイプの防御術式使いやがって!

 そんな事を考えていれば。


「少しは勉強になっただろうが、馬鹿者。お前の仲間は、とても強い。学生とは思えぬ程にな」


「アハハ……はぁぁ。十分すぎる程に理解しましたよ、マジで。むしろ私が大した事無いって事も」


「それは、良い兆候だな」


「性格悪いですね……」


「何か言ったか?」


「何でもないです」


 と言う訳で、本日はエターニアと共に倒れ込むのであった。

 もう、無理。

 流石にこれ以上戦えない。

 そんな訳で、会場に二人揃って寝そべってみれば。


「これで、対等ですからね」


「わかってるってばぁ……針金お嬢様は、相変わらずなんだから……」


「お黙りなさい、この平民」


 二人揃って、昔みたいな会話を交わすのであった。

 全く、アリスだけではなく。

 ウチのパーティは問題児だらけだ。

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