第20話 適材適所は都合のいい言葉ではない

「――うん? ルージュ君、今何かした?」


 あえて言うなら保険をかけた。

 調査隊としてのお仕事一発目ってのもあるし、サポートはちゃんとするって約束もあるからな。


「いや、特には。緊張しすぎてたなら何か悪戯でもと思ったんだけどな、その必要もなさそうだ」


「そうだね。こう言っては何だけども、中々にいい雰囲気を纏っていると僕も思うよ」


「ふふっ、ありがとう。でも、ハリボテだからね、頼りにしてるよ」


 まだ少し震える脚を前に出しながら、ルルは笑った。


 事実上の主力、我らがディク隊はそう言うことになっている。

 何かと戦うために結成されたわけではないけれど、モンスターとの戦闘はあると思わなければならない。


 結局調査隊の先達はメンツを集められず、かといって潔く脱退するということも選べなかった。


 意地か、それとも見栄か。

 定かではないけれど、ラナ先生はその二人の面倒を見る必要があって、面倒を見るために俺たちを自由にさせる形を取らざるを得なくなった。


 ルルとクルス王子にかけた保険を先輩二人にもしているが、予想が的中しないことを祈るほかない。


「しかし、相変わらずルージュは剣を持ってくるんだね」


「あ、そう言えばあたしも気になってたんだ。剣なんて、モンスターに通用するの?」


「クルスには言ったけど、俺に威力のある魔法っていうのは使えない。それは言ってしまうのなら剣による斬撃以下の攻撃力ってことだ。使える、使えないじゃなくて使わないと戦えない」


 そう言うことにしてしまった弊害を実感してしまうよね。

 いっそ開き直って極炎様のお出ましだぜひゃっふー! なんてしてしまった方が楽だよなと思ってしまう。


 くそう、楽になりたい。


「それこそあたしを使えばいいのに」


「字面が最悪だね? あるいは大胆と言うべきかな?」


「え? ……う、うんっ!? ち、ちちち、違うよ!? あ、あたしとパラレル・キャストしたらいいのにって意味だよ!?」


「わかってるって。クルスも緊張をほぐすための軽口で、余計に緊張をさせてどうするんだ」


 顔を真っ赤にするルルと失敬失敬なんて笑う下ネタ王子はさておき。


 俺の魔力をルルに覚えさせるのは良くない。一度やってしまっている分余計に。


 背後関係はまだ洗えていないけど、極炎の婚約者らしいルルだ。

 極炎としてルルと関わる可能性がある以上、その時ルージュが極炎であると勘づかれたら面倒なのだ。


「この前も言ったけど、基本的にスカウト、斥候って役割は調査であれ討伐であれ絶対に必要なポジションの一つだ。俺が適しているかは別として、現状それらしいことが出来るのは俺だけで、スカウトは単独で動く必要がある場合も多い。物理的な意味でもこの形が今のところ最善だよ」


「……はー」


「うん? ルル?」


 もっともらしいというよりは小隊やパーティで動く時の基本だろうに、酷く感心したような目で見られてしまった。なんで?


「いやはやルージュ? 僕にはルルの気持ちがよくわかるよ」


「え?」


「やっぱりルージュ君って、凄い人だよね?」


「まさしくだね。確かに僕も教えとしては知っている内容ではあるが、それほどまでにスラスラと説得力を持たせて語る事なんてできないよ。従軍経験でもあるのかい?」


 ……やらかした?


「や、野暮なことは聞かないで欲しい。クルスも知っているんだろう? 王族がどうたらなんて言うつもりはないけど、本当に基本的な話なんだ。それこそ少しでもその知識をもって実践する機会に触れられた人間なら誰だって同じことを言うよ」


「急に説得力がなくなったと思うんだけど、どうだろうクルス君」


「重ねてまさしく。だが、そうだね。基本であることはそうだろうし、一先ず納得しておくことにしよう。何より現状、そういった知識を持っている人間がいることを喜びこそすれ、嘆く必要は欠片もないのだから」


 うーん、もうちょっと気を付けないとダメだなこりゃ、何なら偽造身分でも用意しておいた方がいいかもしれない。


 とりあえず今度爺さんに会ったらありがとうございますパンチでもしておこう。


「っと……そういうわけで、若干モンスターの気配が強くなってきたぞ」


「っ!」


 俺の言葉に二人が慌てて警戒態勢を取るが、やっぱり素人に毛が生えた程度以下だ。

 当たり前だよな、戦闘訓練なんてやってないんだから。


「落ち着け。気配が強くなってきたってだけで急に襲われることはないし、ここからは斥候の役目だ。ルル?」


「え?」


「俺に指示を出してくれ。周囲に安全ルートがあるかどうか確認して来いって」


「……それが、リーダーの役割で役目ってことだね?」


 そういうことである。

 俺が自発的に行ってもいいけど、それじゃあルルの成長に繋がらない。


 じっとルルを見つめてみれば、大きく深呼吸をした後。


「ルージュ君、周りに安全ルートがあるかどうか確認してきて。私たちはここをベースとして確保しておく。安全が確保できなさそうならぐっと後退するよ」


「了解、リーダー」


 うんうん、言われたままじゃないよね、良いことだ。


「頼んだよ、ルージュ」


「任せとけ」


 さて、それじゃあちょっとお仕事してきますかね。

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