第2話 宅飲み?

 美佳さんと一緒に飲んで、連絡先を渡してから3日。大学の講義も終わり、夜。家で動画を漁っていると、1人のVtuberの動画が目に留まった。


 四迷アリス。この国を代表するVtuberの1人だ。登録者数は250万人を超えている。俺もたまにこの人の動画を見る。


 友人がこの人のファンでよくおすすめを受けるからな。しかし、今日は俺の意思で動画を見ている。切り抜きだが。


『あ、私のマネちゃんの話? マネちゃんはねぇ、すっごい美人で、優しくて、もうなんか、完璧なの。私のあこがれの大人って感じ』


 どうやら四迷アリスがマネージャーの話をしている切り抜きのようだった。まぁあんな話を聞いたからには配信者のマネージャー関係は少し気になった。


『最近、マネちゃんが疲れた顔しててちょっと心配、だったんだけど。一日休んでもらったらすごい回復して戻ってきたんだよねぇ。……人間?』


 ……是非その人の回復の仕方を聞きたいものだ。


 ん? なんで俺がわざわざマネージャーの休憩方法について知ろうと思ってるんだ?


 美佳さんとはもう会わないかもしれないのに。


 そう考えた矢先の事。俺の携帯が鳴った。


「はい、もしもし」


『あ、常盤ときわ 怜志れいじさんでお間違いないでしょうか?』


 少し緊張したような、聞き覚えのある声が聞こえた。


「ええ、あってます。美佳さんですか?」


『そうですそうです! よかった……。その、今日も一緒に飲めたりしませんか?』


 どうやら美佳さんからのお誘いだった。まぁ、美人と一緒に飲める機会だ。捨てるのは、もったいないだろう。美佳さんの酒癖があまり良くないとしても、な。


「大丈夫ですよ~。どこで飲みます?」


『うちの場所を教えるので、うちに来てくれませんか? 宅飲みってやつです』


 え? ちょっとそれは早くないか? 美佳さんには警戒心ってものはないのか?


「……いいんですか?」


『もちろんです。怜志さんの事は、信じてますから。住所は……』


 何を根拠で信じられているのかよくわからないが……。とりあえず住所は把握した。宅飲みらしく、何かお酒をもって向かうことにしよう。


 それと、どうやら彼女は1人暮らしらしい。猶更大丈夫か?


「わかりました、いくつかお酒をもって向かいますね」


『はい。待ってます』


◇◇◇


 そして、ついてしまった。


 建物を見て驚く。ここ、超高級マンションじゃん。え、マネージャーってこんなところ住めるんだ?


 事前に聞いた番号のインターホンを押そうと中に入ろうとすると、誰かがいた。


「常盤様ですか?」


「え、はい」


 なんで名前知ってるの?


「笹島様のお客様ですね。どうぞ中へ。笹島様のお部屋までご案内いたします」


「あ、ありがとうございます」


 もしかしてコンシェルジュってやつ? まじで高級マンションじゃねぇか。


 案内された先のドアのインターホンを押すと、美佳さんが出迎えてくれた。


「怜志さん、ようこそいらっしゃい……」


「お、お邪魔します」


 少し気おくれしながらも俺は美佳さんの部屋に入る。靴とかもしっかり整えて……。


 なんだろう、礼儀正しい行動をしろという強迫観念というか、それにとらわれる。


「是非自宅だと思ってくつろいでいってくださいな……」


「え、ええ」


 どうやら美佳さんはすごく疲れていそうだった。目の下にくまができている。


「美佳さん、体調とか、大丈夫ですか?」


「え? まぁ、大丈夫です。もしかして、くまとか出ちゃったりしてます……?」


「あ、はい。そこそこくっきり……」


「あはは、すいません。お見苦しいものを……でも、くまは消えてからが本番ですから」


 ……なんだその社畜根性。そんな事が許されていいのかよ。


「今の仕事、大丈夫なんですか?」


「ええ、やりがいと楽しさはありますから。やめようと思ったこともなんどもありますけどね……さて、立ち話もなんですし、リビングにご案内します」


 そういえば、ここは玄関だったな。もうなんか、俺の住んでる部屋と変わらない広さしてるんだけど?


 案内されたリビングは、本当に広かった。俺の部屋×5は下らんぞ。いやまぁわかんないけど。


「広いですね」


「25帖? だそうです。まぁこんなに広くても、持て余してしまいますね。……ほかにも同じような広さの部屋ありますし」


 ちょっと俺にはよくわからない世界の話だ。


 すると、美佳さんがリビングの机に腰を掛け、俺を呼ぶ。


「さっそく、飲みませんか。私は、怜志さんとお酒が飲みたいです」


「はい。では……」


 俺は美佳さんの前の席に着き、鞄から持ってきたお酒を出そうとして、やめた。


 コンビニで買ってきた普通のお酒を出すと、なにかいけない予感がしたからだ。


 その予感は当たっていた。


 俺を座らせたまま、美佳さんは冷蔵庫にお酒を取りにいった。


 戻ってきた美佳さんが持っていたのは、見るからに超高いワインだ。


 丁寧にグラスも二つ、美佳さんは持ってきた。


 ……俺にも飲ませるつもりなのか、そんな高そうなお酒。


「美佳さん、さすがにその、そんな高そうなお酒はいただけないですよ」


「これは私の奢り? なので気にしないで大丈夫ですよ」


 そうして、庶民にとってはすごく申し訳なくなる宅飲みは幕を開けた。


◆◆◆


 美佳がお金持ちなのはマネージャーだからじゃないです。




 


 


 

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