第6話 危機のこと

『危機一髪』、それをこの私の人生に思うとしたら。


それは、あれだ。


遠い昔、若かりし時代に。

それより前の生活や環境からの歪みで、まぁ私の素地もあり発症した精神の病気の全盛期のとき。


精神がおかしくなっていた。

考えることがおかしくなっていた。

とにかく「私は生きてちゃいけないんだ。」と『肯定的』な意味で思っていた。私は、死んで光になって、そうして、人たちを良くしていく手伝いをしていかなきゃいけない。


そう思っていた。

死ぬ手段として、心臓を一突きという言葉が浮かんでいたけれど、とてもそれをする度胸も、力もないと思われ。お湯をいっぱいに溜めた浴槽に潜って溺死しようとしたが、どうしてもあがってきてしまう。息をしてしまう。寒い季節だったので、外に出て、凍死とも思ったけれど、これは時間が掛かりそうだと思ってやめた。手にしたのは、包丁。今なら『道具は正しく使いましょう』であるのだが、このときに生まれて初めて『正しくない』使い方をした。右利きである。持って、『そうか、病んだ人は手首を切る』という思いが浮かんで、ギャッ、ギャッギャッ。と切ってみた。そこからは勢いで、『そうか首か』との思いで、首もちょっと。でも、どうしても加減をしてしまう。『心臓を一突き』の思いで、手を、左の手の平を、一突き、しようとしても加減だ。結果、その突きが神経に少し障り、後に残った。


まぁ、血だ。


ベッドのうえで。

寒い季節に。

ひとり暮らしの、独りの部屋で。


怪我としては、なんてことない、ただ沢山、切れて血が出たということだっただろうが。


家族を思った。

119番に自分で電話した。


父親にも電話した。


そこからは救急車が来て、まず怪我の処置をした後、言動のおかしい私は、どこかへ車で乗せられて行った。


精神科病棟だった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る