82 そしてまた、新たなる序章 >> NEXT CHAPTER ③

「えーっとー…………そのー…………ごめん、ねぇ……?」


「師匠の薄情者ぉ!! 私のイラストのお陰で会長を口説き落とせたようなもんなのに!!」


「あ、うん。本当にごめん。勝手に話を進めて反省してます」



 ちなみに、この問題については薫織も全然意識していなかった為、この二人について何か言える立場ではなかった。


 今朝になって辞令が出たことを話題に出したところ、大層慌てだした流知を見て慌てて学生牢まで飛んできた次第なのである。



 そういうわけなので、謝ることしかできないダメ大人二人は放っておいて、流知は唯一信頼できる己のメイドに縋りつく。



「ねぇ薫織、お願い! なんとか部員がいなくてもライ研を続けられるようにできないかしら!?」


「……だそうだが、生徒会長。お得意の不正行為でどうにかならねェか?」



 とはいえ、当然ながら一介のメイドに過ぎない薫織の範疇を越えている。

 いや、今まで散々暴れておいて今更何が一介のメイドだよという部分もあるのだが……。


 ともあれ明け透けに不正の頼みをする薫織だったが、ピースヘイヴンは静かに首を横に振る。



「残念だが、私はルールを変えてから動くから不正は今回以外していないぞ。つまり、答えはNOだ。諦めて代わりの部員を探すんだな」


「こんなときばっかり真面目ぶるんじゃないですわよダメ人間!!」



 当然すぎるツッコミを入れる流知だったが、今回の生徒会長はどうやら清廉潔白モードのようだった。

 やはり、どうしても代わりの部員を集めるしかないらしい。

 ──薫織の眼から見れば、ピースヘイヴンの態度には『君ならそのくらい楽勝だろ』という楽観もあるように思えたが。



「……うぅ、薫織ぃ」



 勝手に万策尽きた気になっている流知に見上げられ、薫織は面倒くさそうに溜息を吐く。


 頭を搔きながら、メイドはどうにも締まらない調子でこう言ったのだった。



「はァ……。仰せのままに。『ご奉仕』の時間といかせてもらいますか」




   ◆ ◆ ◆




 そういうわけで、薫織達は学生牢を後にして校舎を彷徨い歩いていた。


 新しい部員──と言っても、既に世間はゴールデンウィーク。


 全寮制の『ウラノツカサ』といっても、大部分の学生達は学外に帰省しているのが大半だし、それに伴って島内のインフラを維持する為の人口も大幅に少なくなる。


 必然的に校舎の中にいる生徒は激減しており、そういう意味でも部員探しは難航しそうだった。



「さて、此処で流知お嬢様に問題だ。この帰省シーズンに『ウラノツカサ』に居残ってるヤツってのはどういうヤツだと思う?」



 校舎の中をぶらぶらと歩きながら。


 お嬢様をエスコートしているメイドは、横に並ぶ流知にそんなことを問いかけた。

 突然の出題に訝し気な表情を浮かべつつも、流知はぼんやりと思考を巡らせながら答える。



「え~……学校が好きな人とか、学校でやりたいことが残ってる人とか……?」


「ブー。発想が善だなァ。間違いじゃねェが、そういうヤツは学校生活が充実してるから新入部員向きではねェな」



 薫織は楽しそうに笑って、



「答えは。家庭に問題があるとかで帰省したがらないヤツ。補習で帰省することもできねェヤツだ」


「あ~……」



 納得すると同時に、流知の表情が渋いものになる。


 つまり薫織の問いかけは、言外に『この時期に学園に残っているヤツなんてろくなヤツがいねェぞ』と言っているようなものだからだ。

 そして、流知のような人畜無害な生徒はそうしたヤンキーに対して無条件に忌避感を覚えるものである。

 (常に行動を共にしている薫織の言動も大概ヤンキー並みにガラが悪いのでは? とは言ってはいけない)



「まァそんな顔するな。アテはある。そうだな──」



 言いかけたところで、薫織は視界の端に緑髪の女子生徒の姿を捉えた。


 女子生徒の方も薫織の存在に気付いたのか、ぴくりと眉を動かしてから──非常に嫌そうな顔をした。



「よォ、シャバの空気は上手いか? 退



 ──伽退きゃのく悠里ゆうり


 『生徒会』クーデター騒動の主犯であり、押し売りの契約印デモンズカヴァナントという洗脳タイプのシキガミクスを扱う陰陽師だった。

 薫織に倒された後はクーデターの主犯として学生牢に収監されていたのだが、そのクーデター対象が学生牢に叩き込まれたことで、『生徒会』の混乱を抑える為に条件付きで釈放されているのだった。


 ちなみに、その正体は学園の『外』に存在する『笛吹会』という大変お行儀の悪い組織のエージェントである。

 ガラの悪さで言えば不良など比にならないレベルであった。



「……何が何やらさっぱりですよ。私は、貴女に負けて収監されていたはずなんですがね」


「テメェは気付いていなかったようだが、ピースヘイヴンは『霊威簒奪』のさらに奥に陰謀を企てていた。オレ達が阻止したから、アイツは無事学生牢行きって訳だ。

 『生徒会』の半数が学生牢に入った上に会長まで学生牢じゃ『生徒会』の運営が破綻するから、とりあえずテメェらは釈放になったんだろ」


「………………もしかしなくてもこの学園、今かなりヤバイ状況だったりするのでしょうか」


「ま、ピースヘイヴンがやる気だしそう酷いことにはならねェと思うが……」



 冗談抜きに、戦後まもなくくらいに制度はガタついている状況である。

 ちょっと顔を蒼褪めさせた伽退の感覚は正しいと言わざるを得ないだろう。


 ただ、は本題ではない。薫織はこほんと咳払いをして、



「ところで、だ。今オレ達の部活が定員割れしてんだが、入る気はねェか?」


「えぇ!?」


「はぁ!?」



 薫織の言葉に、流知と伽退が全く同時に声を上げた。

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