第4話


復讐の計画を胸に、僕は冷徹にその時を待っていた。兄貴への憎しみは、僕の心を完全に支配していた。夜が更けるにつれ、暗闇が僕を包み込み、その冷たさが僕の決意を一層強固なものにしていった。


ある日、ついにその機会が訪れた。兄貴がいつも通りに仕事から帰る時間を見計らい、僕は彼の自宅近くに潜んでいた。街灯の明かりが微かに差し込む通りで、僕の心は復讐の炎で燃え盛っていた。


兄貴の姿が見えると、僕は息を殺して待った。彼が家に入る直前、僕は静かに声をかけた。


「兄貴、久しぶりだな。」


兄貴は驚き、振り返った。その顔には困惑の表情が浮かんでいた。


「お前…こんなところで何してるんだ?」


「話があるんだ。お前にとっては都合の悪い話かもしれないけどな。」


兄貴は一瞬警戒したが、僕の決意を見て取ったのか、ゆっくりと近づいてきた。


「何を言いたいんだ」


僕は冷静に、しかし強い怒りを込めて言った。「お前が俺を見捨てたこと、母親と一緒に逃げたこと、全部覚えてる。お前の裏切りがどれだけ俺を苦しめたか、知ってるか?」


兄貴は言葉を失い、黙って僕を見つめていた。その沈黙が僕の怒りをさらに煽った。


「お前が菜々子の心を奪ったことも知ってる。俺を利用して、自分だけが幸せになろうとしてたんだろう。」


兄貴は息を飲み、やがて静かに言った。「俺もあの時はどうすることもできなかったんだ。母親を守るために、仕方がなかった。」


「それが言い訳になると思ってるのか?俺は毎日父親の暴力に耐え、孤独と戦ってきたんだ。その苦しみをお前が理解できるわけがない!」


僕は拳を握りしめ、兄貴に一歩近づいた。その時、兄貴の表情が変わり、涙が目に浮かんだ。


「すまなかった、本当にすまなかった…」


その謝罪の言葉が、僕の怒りを一瞬和らげた。しかし、復讐の念は消えなかった。僕は冷たい声で言った。


「謝罪なんていらない。俺が欲しいのは、お前の苦しみだ。」


その瞬間、遠くから菜々子の声が聞こえた。「やめて、お願いだから!」


菜々子が駆け寄ってきた。彼女の目には涙が浮かんでいた。僕は彼女を無視し、兄貴に向かって言った。


「お前が俺を裏切ったように、今度は俺が裏切ってやる。」


兄貴はうなだれ、菜々子は僕に向かって手を差し伸べた。「お願い、やめて…」


僕はその手を振り払い、兄貴に最後の言葉を投げかけた。「お前の苦しみが、俺の救いだ。」


その言葉を残し、僕はその場を立ち去った。復讐の念は果たせなかったが、兄貴の苦しむ姿を見たことで、少しだけ心の中の怒りが和らいだような気がした。


それでも、僕の心はまだ暗闇に包まれていた。復讐の終わりが見えた今、僕は次に何をすべきか分からなかった。孤独と憎しみが再び僕を支配し始めていた。兄貴への復讐は果たせたが、その後に残るものは何もなかった。


僕は再び暗闇の中を歩き続けた。どこへ行くかも分からないまま、ただ孤独と向き合いながら。

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