第33話 溢れる気持ち

キーンコーンカーンコーン

「じゃあ先日のテスト返していくぞー

 名前呼ばれた人から順番に取りに来るように」


「いよいよだ..夏生お前出来たか?」


「もちろんだとも!今回は自信満々だ!」


「大地は..って元気出せよ..」


「...」


朝っぱらから先生に死ぬほど怒られて元気なんか出るわけがないだろ

そんな事を思うが口に出す気力すら湧いてこない


「じゃあ最初は..」


遅刻&よそ見で職員室ルートの次はテスト返しとか..

分かっていたことだが実際その時が来ると吐き気すら覚えてしまう


(今回は今までより比較的真面目にやったけど..

 って何でこんなにドキドキするんだ?)


正直テストなんかどうでも良い..と前までは思っていたが正直今回の数学は

いつもより勉強した


奏さんと立花さんと一緒にやったからってのが1番大きい気がする

半ば強引ではあったがせっかく2人が教えてくれた以上

低い点数を取るわけにはいかない..

そう思うと嫌だった勉強も自ずから出来た


「じゃあ次鷹藤ー」


「は、はい!」


ついに呼ばれる俺の名前

そしてついに受け取った紙を見るとそこには..


「え..?」


**

キーンコーンカーンコーン


「なぁ大地..これ..」


「ああ..」


「これ何かの間違いじゃないのか?0が1つ多いとか..」


「いやそれはない..だって先生に確認しても間違いないって..」


4限の終礼のチャイムが鳴り他の生徒たちが皆それぞれの昼休憩を過ごす中

俺たちは机の上に置いてある俺の数学の答案用紙を囲んでいた


それもそのはずだってあり得ないことが起きているのだ


「いち、じゅう、ひゃくって..」


「あの大地が100点..?」


「あの俺が100点..?」


机の上の上には確かに『鷹藤大地__100点』と書いてあるのだ

確かに今回は勉強したがそれにしたって100点って..


正直自分でも嘘なんだと思ってしまうが本当らしい

俺がこの手で初めて取った100点!


改めて見ると少し実感が湧いてくる

嬉しい..少しいや凄く


まぁ帰ってきた教科のうち勉強したのは数学だけだからそれ以外は赤点である

だがしかし!1つでも100点があるだけで一連の不幸が全て吹き飛ぶくらいには

気持ちが軽い..!


(やった!これも奏さんと立花さんと勉強したからだ!)


(立花さんと...)


「立花さん..」


「だ、大地!?」


「え?」


「いやっお前..涙が出てるからさ..」


「涙..?」


俺はその時手に何かが落ちてくる様な感触がした

水滴の様なそれは俺の涙だった


「涙っ!気持ちは分かるぞ鷹藤くんっ!己の努力の成果っ!

 自身が積み上げてきた故の100点っ!嬉しいに決まってるだろう!」


「うわっ!声でかいって!そう言う夏生は何点だったんだ..!?」


「ズバリ!77点だ!ラッキーナンバーだろう?」



「い、意外と高い!?」


「そう言う天野は何点だったんだ?」


「25..」


「25!?どうやったそんな点取れんだよ」


「うっ!今回はその!寝ちまったんだよ!徹夜で詰め込むつもりだったのに!」


智紀達がバカみたいな話をしているが俺の中にはさっきの夏生の言葉が響いていた


(努力..か..)


確かに夏生の言うとおり頑張ったからの嬉し泣きもあるのかも知れない

だがしかしそれよりも俺の頭をよぎったのは立花さんと勉強した思い出だった


思えばまだ出会って数ヶ月 しかしこの数ヶ月一緒に過ごしてきた時間は

間違いなく楽しかったし自分自身にとって大切だったと思う


だって立花さん達と勉強しなかったらやる気にもならなかった


赤点ばっかだった俺でも頑張れば100点を取れる

『苦手』って理由だけでやってこなかった勉強..

もしかしたら俺だってやれば出来るかもしれない

そう思えたのは立花さん..いや立花さんだけじゃなくてみんながいたからだった


特に立花さん..やっぱりちゃんと話したい..

このまま気まずくなって一緒にいられなくなるのが何より恐ろしかった


(立花さん...)


教室を見てみると立花さんの姿は無かった

でも思ったら即行動すべきだと思った


俺はスマホを出して立花さんのLoinを開く


(話したいことがあって..昨日のは誤解で..って何て言えば..)


本当は立花さんには直接声をかけたいが

何故か今教室に立花さんの姿は見えない


多分帰ってきた時に言えば良いんだろうけど俺は今立花さんにこの気持ちを伝えたかった だからLoinで送ろうと思うけども上手く言葉に出来ない..


(クソッ..どうしたら..)


俺が言葉に悩んでいたそんな時だった


ピコン


音と共に開いていたトーク画面にメッセージが映る そしてそこには


「屋上に来て」


一言 たった一言だけ言葉が書いてあった


(屋上..?何で屋上..?それよりも..立花さん..!)


正直色々混乱していた

何で急にメッセージが届いたのか全然分からない


それでもやっと立花さんと話せるタイミングが来たのだ


「!!み、みんなちょっとごめん!」


「だ、大地どうしたんだよ!」


「立花さんから!立花さんから連絡が来たんだ!」


「え!?マジ?良かったじゃん!」


「ちょっと行ってくる!みんな先ご飯食べておいて!」


(立花さん..待ってて!)


ちゃんと話をしたい

もう一度..やり直したい..


俺は全速力で屋上に向かった


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