危機一髪

野苺スケスケ

第1話 危機一髪

「う〜ん…ぼんやり見えるなぁ、男性で…悪い気は全然しない。むしろいいほう…」


 重い空気が流れる放課後の教室。


「あーーー無理!私にはここが限界だ!ごめん!」


 ユミが大きく息を吐きながらミカに告げる。

 転校生としてユミがミカのクラスにやってきてから三日目。初日からミカのことをジーッと見てくるユミに耐えきれずにミカから話しかけた。


「ねぇ!なんなの!?」


 それが始まりだった。


 ユミは霊感が強くてミカの背後にいるずっと気になっていたのだ。それを聞いたミカはワクワクしながらユミに視てほしいとお願いしたのである。


「やっぱり背後霊とか?」


 ミカが尋ねる。


「そうだと思う…照れ屋さんかな?普段は私でもわかるくらいって感じなのにいざ視ようとすると隠れちゃう」


「えー何それ!?かわっ!イケメン?」


「さすがにそこまではわかんないよ」


 笑顔で会話が弾む。




「……ほほほ、出てやっても良かったのでは?」


「それでどうする現代いまのこいつは俺を知らない………彩凛さいりん


 ミカの背後と言うよりはもっと上の方で二人の男が会話をしている。


 老人の男が若い男に話かける。


「今回で最後じゃな…長かったの」


 若い男が答える。


「悪かったな付き合わせて」


「ほほほ!何を今さら…」


 若い男の名は「天生てんしょう」ミカの守護霊となって数百年になる。いや…ミカの前は「ヨシ」の守護霊だった。その前は「お多恵」…つまりミカの魂を見守ってきたのだ。転生を繰り返し今はミカである。そして、ミカが最後の転生であった。


 老人の男は天の使い。ようは天使である。そして、名前は無い。無いから天使と呼んでいる。


 本来なら「天生」が亡くなった時にその魂を転生に向け天界に導くはずだったのだが、「天生」のどうしてもという願いにより、ミカの魂を見守り続けるという守護霊を選んだのである。


 それが数百年前の出来事である。


 許嫁だった。親が決めた相手だが初めて会ったその日に二人は運命を感じたのだ。


 天生が十五歳、彩凛が十三歳の時であった。


 二人はお互いを強く思い、お互いがお互いの為に生きていた。だが、別れは突然訪れた。


 一緒になってちょうど三年目だった。子供が出来ない二人の為に長老が天の巫女様の所へと天生と向かった。途中、天候が崩れ足を踏み外した長老を庇い天生は崖の底へ。


 そうして魂だけになった天生は彩凛を護り続けると誓ったのである。


 数百年たった。一つの人生を全うして、直ぐに次というわけではない。数年のときもあるし数十年、数百年のときもある。


 天生は彩凛の魂の転生を待ち続け、新しい肉体で新しい人生が始まる度に守護霊として護り続けた。


 天使の言う「最後」とは、ミカで転生が最後であることを意味する。

 魂は七回転生する。七回目の人生を全うするとその魂は神へと成る。


「本当にお主はよくやったの…」


 天使はそう言うと遠くを見つめる。


 七回転生して神に成るには。七回の人生をきちんと全うしなければならない。自殺はもちろん論外であり、人生が始まった瞬間に決められた寿命(受命)を生きなければならないのであった。しなければならないのだ。きちんと七回…。


 天使は続ける。


「次はお主じゃぞ!お主が全うしなければ意味がないんだぞ!」


 天生は目を瞑る。


「わかっている…」


 守護霊として守ってきた今までを振り返り、小さく呟いた。


 〜五十年後〜


 病室のベッドに年老いたミカの姿。娘、孫、ミカが作り上げた家族に囲まれながらミカの人生が終わろうとしていた。


「おばあちゃんもう起きてくれないかな?」


 孫と思われる女の子が悲しそうに母親に尋ねる。母親は涙を拭いながら女の子を抱きしめる。


 ゆっくりとミカが目を開く。


「おばあちゃん!」

「お母さん!」


 ミカを呼ぶ声が交差するがミカは誰の方も見ず、ただ一点を見つめていた。


「わかるのか…」


「私が視えるのか…」


「彩凛…」


 ミカの視線の先には天生がいた。


「ずっと…ずっと…そこにいたのね…あなた」


「あぁ!ずっといたぞ!君のそばに私はいた!」


 今までも臨場に立ち会ってきたが、天生に気づいてくれたのはこれが初めてだった。


「お侍様に斬られそうになった時も、空襲で逃げ遅れた時も、地震で諦めそうだった時も…ずっとあなただったのね…」


 魂の軌跡を思い出すミカ。


 いつも不思議な力で護られていた。それがなんだったのか最後の最後でわかったのである。


 見つめ合う二人の魂。


 思い出すように天生が語る。


「いつも、どれも危機一髪だったよ…」


「ありがとう …あなた。今度は私が待ちます。だからお願いします…必ず真っ当してください。何百年でも何千年でも待ちます」


「あぁ…大丈夫だよ。私は必ずもう一度君の前に現れる」


「約束です…」


 ミカの魂はゆっくりと天へと昇っていった。


「午前十時六分…」


 医師が時刻を確認する。


 ミカは大粒の涙を流し微笑みながら旅立った。


「……」


「待たせて悪かった…さぁ連れて行ってくれ。どんな人生でもきっちり生き抜いてやる!」


 天生が天使に力強い言葉を吐く。


「一つだけ…」


 天使が口を開く


「特別に一つだけだけ教える…天生…お主は次が七回目じゃ」


 天生は目を見開く。


「わしが絶対に全うさせてやる!行くぞい!」


 天使はそう言って天生と天に昇って行った。




 おぎゃー…おぎゃー…


「おめでとうございます!とっても元気な男の子です」


 〜終わり〜









  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

危機一髪 野苺スケスケ @ichisuke1009

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ