ぐわんぐわん

真田真実

第1話

今日はおばあちゃんが来るから早く帰ってきなさいと母から言われていたことを思い出したのは学校帰りの途中にあるブランコだけの小さな公園で友だちと別れたあとだった、

A子と途中で買ったお菓子を食べながらブランコに揺られ楽しい時間を過ごしていると防災無線から少し音がズレて落ち着かない夕焼け小焼けがなり始めたと同時に母からの着信があった。

恐る恐る電話に出るとおばあちゃんからで、暗くなるから明るいところを通って帰りなさいと言われた。

昔、この近くの交差点でストーカーが車に撥ねられてこの辺を彷徨っているという学校の怖い噂や最近不審者の目撃情報があるのを思い出して少し涙目になる。

「また明日ね!」

そんな私を尻目にA子はニコニコと手を振り帰っていったが残された私は焦る気持ちでいっぱいになった。

私はいつも通る幹線道路沿いの道を行くか、そこから1本外れた普段通ってはいけないと言われている住宅街の細い道をまっすぐ進んで帰るか悩んだ。

幹線道路は街灯も明るく人通りも多い。

かたや住宅街の道は住宅街なのに人の気配が全くないから母親に通ってはいけないときつく言われていた。

私はギリギリまで悩み、幹線道路経由で帰るより15分も早く帰り着くそのルートを選択した。

幹線道路を少し歩き、壊れかけた〇〇ニュータウンの看板を右に折れる。

すると、陽が随分と傾き、ところどころ細く街灯が灯る暗い道の先を不安定な足取りで少女が歩いている。

私は少女を追い抜き一刻でも早く帰りたかったが様子のおかしい彼女の後を少し距離を取ってついていくことにした。

闇に溶け込むような黒のゆったりとしたワンピースをまとう少女の行く先は見えず、少女の白い手足と背中の半ばまで伸びた艶やかな髪が細く照らす街灯の下で右にふらり左にふらりと揺れ動く様が心許ない気持ちにさせる。

そのうち少し進んでは後退り、少し進んではぐらりと体を傾がせ不安定な足取りからだんだんと奇妙な動きへとなり、やがてぐわんぐわんと上体を回し始めたところで私と彼女は目が合った。

私はどうしていいかわからず視線を合わせたまま仰け反ったままの少女を見つめていたが、不意に私の後ろで鋭い悲鳴と走り去る硬い靴音がした。

少女は私からゆっくり視線を外すと仰け反ったまま手足を地につけすごい勢いで私の横をすり抜け走り出した。

なぜか私は振り向いてはいけない気がしてそのままそこで立ち止まっているとしばらくして少女と先ほどの声の主と思われる男性の靴音が近づいてくる。

私は見てはいけないと思ったがすれ違う瞬間に2人を見てしまった。

ならび歩く男性の首が不意にぐらりとこちらへ揺らぎ否が応でも男性の顔が目に入る。

男性の両目は抉られ、虚ろと化した眼窩からは血の涙を流し、ふたつの目玉は口の中からこちらを覗いていた。

「お前の目は綺麗だから大切にしろ。」

少女はしわがれた声で呟くとそのまま男性の髪を掴み体を引きずるようにして街灯下の深い闇だまりに消えた。

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