真面目にやったら最弱で、本気を出しても最下位です
春待けんがん
一章
第1話 退学処分
「
「えっ? えええええええええええええええ!?」
二年生になって初めての登校。担任の先生に呼ばれた俺が言い渡されたのは、絶望の一言であった。
「どうしてですか
「勉強はできてるよ勉強は。だが、この学園は普通の学園ではない。勉強だけでは駄目なのはお前も知っているだろう」
目の前に座る八重先生をまじまじと見つめる。華やかな金色の長髪。それとは対照的に簡素な服を着こなしており、その上から白衣を羽織っている。端正な顔つきに切れ長な目は見るもの全てを委縮させるが、実際は真面目で優しい方だ。
「知ってますけど、いきなり退学処分は酷くないですか?」
「酷くなどない。そもそも八雲が進級できているのがおかしな話なのだ。お前が学園で最弱なのも学園ランキングで最下位なのも構わない。それにしても、0ポイントはどうかしているだろう! どうしてそんなことになる!」
「いやー、俺は戦闘希望でこの学園に入ったから基本的に戦闘しか行っていないんですよね。他の分野では点数が稼げないので」
「その戦闘で1ポイントも稼げてないんじゃ意味がないだろうが! 負けても多少はポイントが入るだろう。どうして0ポイントなのだ! 普段はどんな負け方をしているんだ!」
「これは無理だと、負けると思ったら早めに全部降参してます」
「……馬鹿者。余りにも早い降参はポイントが入らないんだよ。道理で戦っている噂を聞く割に勉強以外の進級ノルマポイントが達成できないわけだ……」
八重先生は頭を抱えて唸りだす。そういえばそんなルールがあったな。降参してもポイントが入ってると思ってたからずっとこの戦法でやり過ごしていたんだが、駄目だったのか。ちゃんと手持ちのポイントを確認するべきだったな。
「こんなことを聞くのも悪いが、八雲は真面目に戦ってるんだよな? ずっと負け続けるなんて滅多にないことなんだぞ」
「そりゃ、やるからには真面目に挑んでますよ。決闘の前の日は早く寝て、当日も早く起きて練習してますよ。でも、当日挑んだら簡単にいなされるんですよ。コテンパンにされる未来しか見えないなら降参するのは当然じゃないですか」
「八雲……お前の身体能力も魔力も強い人よりは劣っているが最弱レベルではないだろう。頑張れば一矢報いるぐらいできるはずだ」
「いやー、戦闘希望者はほとんどが戦闘スキル持ちですから単純な身体能力や魔力じゃ勝てないんですよねー」
「はあ? 八雲、お前まさか、決闘でスキルを使ってないのか!? 冗談だろう!?」
「いや、冗談じゃないです。俺のスキル、普通だと使えないので」
八重先生の開いた口がふさがらない。よっぽど衝撃的だったのか未知の生命体を見るような目で俺を見ている。
それもそのはず。この学園で全てを左右するのは【スキル】なのだから。全ての人間には魔力が宿っている。人間の生活基盤には魔力と電気が根付いており、魔力と電気は共存している。これら二つの要素を以て、人類の文明は発展してきた。そして、全ての人間に宿っているものにはもう一つある。それが【スキル】だ。
スキルは人類にさらなる力を与える。スキルを発動すれば魔力が上昇するし、スキルの種類によって魔力の属性も変化するといったようにできることも変わってくるのだ。
例えば、【火竜】のスキルを持つものは魔力を火属性に変化できるし、【瞬間移動】のスキルを持っているものは遠くまで一瞬で移動することができる。スキルなしの身体能力と魔力だけで戦うということは、魔力を体に纏わせて殴ったり防御したり、魔力の塊を放出したり、魔力で身体能力を少し向上させるくらいしかできないのだ。
要するにスキルあっての身体能力と魔力ということ。スキルなしで戦うというのは無茶な話なのである。
「あのな八雲。それならどうして戦闘希望にしたんだ。事例は少ないが、希望を変えれば戦闘以外でも点数を稼ぐ方法はいくらでもあるんだぞ。変えるという方針はなかったのか?」
「……実は俺、亡くなった父さんと約束したんですよ。この学園で最強になるって。最強の男になって戻ってくるって、言っちゃったんですよ。だから、俺は俺なりのやり方で必死に頑張ってきたんですけどね」
「……そうか。八雲の思いを尊重したいのは山々なんだが、こちらも規則なんだ。私の意志ではどうにもできない。普通は退学になりそうだったら私のところに通告が来るはずなのに、どういうことか伝わっていなかったんだ。それで進級できると高をくくってしまった私にも非がある。すまないな八雲。私がよく確認しなかったばかりに」
「いえ、先生のせいではないですよ。俺のやり方が悪かったんですから。それよりも、どうして俺は進級できたんですかね?」
「それは生徒会の力が影響しているみたいだ。私の元に通告が来なかったのも生徒会の仕業らしいんだ。どうやら生徒会長がお前に何かを期待しているらしい」
「はい!? あの生徒会長が俺に期待ですか!? ……嬉しいってよりは」
「怖いよな。現生徒会長は歴代最強であると同時に歴代最強の変態でもあるからな。何を考えているのか私にはさっぱり分からんよ」
生徒会長。この【
「なあ八雲。今からでも方針を変えてみないか? お前は勉強はできるし、私の言うとおりにすれば退学は免れるはずだ。せっかくこの学園に入ったんだ。私も教師としてお前をこのまま退学にはさせたくない。手伝えることがあるなら私も手伝うぞ」
八重先生は相変わらず優しいな。本当は初めから俺を退学させないように色々と考えていたのだろう。こんな厄介な生徒一人、退学してもらっても構わないだろうに。
(「隼人、俺はお前が最強の男になれると信じている。お前の秘密主義は大したものだが、俺には分かる。隼人の本当の力は全てを凌駕すると。頼む! ぜひ、天岩学園に通ってみてくれ! 俺からの最後のお願いだ」)
最後と言っていたが、父さんからお願いされたのはあれが初めてだった。母さんは厳しい人だったが、父さんは俺に自由を与えてくれた。何も縛らず、何も課すことはなかった。そんな父さんの最初で最後のお願い。俺の人生を変えた大事な約束を、俺の好き嫌いで破るわけにはいかねぇよな。
俺は不真面目にやるのが、俺のスキルが嫌いだ。だからこの一年間スキルを使わずに真っ向から勝負をした。その結果が、負けに次ぐ負けどころか降参なんだがな。……はぁー、痛いのも辛いのも嫌だけど、勝つためにはやるしかねぇよな。
「八重先生、もう一度俺にチャンスをくださいませんか? 他のことではなくバトルで活躍したいんです。……なんとか、なりませんか?」
「……うーん、なんとかなるかと言われればなんとかなる。というか、生徒会長はそっちの方で退学を免れて欲しいみたいでな。一応、あるにはあるぞ。でもなあ……」
「そこまで言ったならはっきりと言ってくださいよ。バトルで退学を免れるのであれば、どんなことでもする覚悟はあります!」
「……そうか? じゃあ単刀直入に言うが、今度編入生がやってくるんだ。そいつとバトルして勝って見せろだとさ」
「……マジすか?」
---
「はあー、なんでよりもよって編入生とバトルしなきゃならんのだ。本当に何を考えているんだ、あの人は」
俺は魂を抜かれたかのようにベンチに座って空を仰ぎ見る。今日もいい天気だなー。だというのに状況は最悪だ。編入生。すなわち、天岩学園外で優秀と認められた上で、天岩学園の厳しい編入試験に合格した生徒であるということ。
言ってしまえば、学園でも上位に入ることのできる能力を持っているということだ。普通は誰でもいいからバトルで一勝して見せろとかそんな感じのはずだろうが。ハードルが一段階どころか三段階も上がった気分だ。
俺は周りを見る。今は朝の早い時間で誰もいないが、時期にここら辺も大量の生徒で埋め尽くされる。今日は天岩学園の入学式。まだこの学園をよく知らない瑞々しい少年少女たちが入学してくる。俺にもあんな時代があったと思うと涙が出てくるよ。一年も経ってしまえばもうおじさん。酒が飲めるなら飲んでいるところである。
「さて、どうしたものかね。入学式が始まるまで屋上で寝るとすっか」
俺はのらりくらりしながら人がいない空間である屋上を目指して歩きだす。屋上は一般生徒にも開放されているが、よっぽどのことがない限り人がやってくることはない。なんたってここは陸の孤島と言われている日本の南国に位置する場所なのだから。
朝から夕方まで太陽が眩しくて、暑くて仕方がない。唯一海が近いこともあって、海からの涼しい風が吹くのだけはいいところだ。俺は屋上の中で一つだけ日陰の中に存在するベンチに寝っ転がって辺りを見回す。
「いつ見ても壮大だな」
目に映るのは学園の広大な敷地。大学数個分くらいの建物に、全校生徒が泊まるための男女寮。様々な施設に加えて決闘場と言われるバトルをする施設がたくさんある。
ここは天岩学園。スキルを持つ優秀な生徒がそれぞれの分野で最強を目指すために作られた学園。勉強ができるのは当たり前。それに加えて、自分の得意分野で活躍してポイントを稼ぐのがこの学園のルール。獲得したポイントによって学園での順位が決まり、その順位は生徒の優秀さへとつながる。ポイントを持っている生徒ほど色んな企業に目を付けられ、出世街道まっしぐらというわけだ。
俺はそんな学園で最弱、最下位の人間として進級した異端の人間と認識されている。俺が0ポイントなのはみんなも知っているのだろうか。俺の中ではノルマを達成したつもりだったんだがな。
「まあ、どちらにせよ一年やって駄目だったらやり方を変えるつもりではいたんだ。まさか、退学処分まで追いつめられているとは思わなかったな」
俺はあくびをしながら体を伸ばした後、寝ころびながらスマホで動画を見ていく。誰もいない学校の屋上で風に吹かれながら見る動画。実に最高である。入学式を休んで見る動画の方がより最高なのだろうが、休めない理由がある。
別に入学式を休んだくらいでとやかく言われることはないが、今年入学してくる一年生にはうるさいうるさい俺の幼馴染がいる。後でワーワー言われるよりは我慢してでも出るべきなのは今までの経験から良く分かっていた。
「おっと、もうこんな時間か。いないのがばれたら大変なことになるのは目に見えてるからな」
俺は急いで入学式を行う講堂に向かう。去年とは打って変わって忙しい毎日が始まろうとしていた。
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