紅蓮の剣士、レスター
月杜円香
第1話 旅立ち
その長刀は、骨董屋の俺の家に古くからあるものだった。
まさかそれが理由の一つだとは俺も思ってみなかったぜ。
俺の名前は、レスター・ウィレム、15歳。
アルデバラン王国の王都、バランで骨董屋を営む父ちゃんと優しい母ちゃん、妹のセレスティアと四人で平平凡凡に暮らしていたんだ。
父ちゃんの骨董屋の客は、変な秘密結社みたいな人が多くて、黒い装束の人が良く店に出入りしていたな。
俺は、真っ当な人相手の商売を手伝っていたんだ。
妹のセレスティアは、看板娘だな。
それくらい可愛い妹だった。
この平和で平凡な生活は、セレスティアが嫁ぐ日まで続くとずっと思っていた。
それなのに。
それなのに。
――――ある日突然、それは崩された。
俺は、客の依頼で店の品を幾つか持って、家を留守にしていた。
そこで思ぬ出会いをすることになってしまう。
客は、貴族だった。
アンティークの人形を欲した16歳の令嬢に気に入られて、なかなか帰してもらえず、伯爵家を出たのはもう日が沈みかけていた。
大通りを横切って、帰ると家の方から黒い煙が出ていた。
(どこの家だ!?)
と思っていたら、二軒先の織物問屋の主人が、俺を見つけて近付いて来た。
「レスター!! 何処に行ってたんだ!!」
「俺の家なのか!? 父ちゃんは?母ちゃんは? セレスティアは無事なのか!!?」
慌てた口調で織物問屋の主人は言う。
「ワシも避難をして来たんだ。火は骨董屋から突然に上がったのだ。その前に悲鳴も聞こえている……強盗に入られたのやも……」
それを聞いた俺は、自分の家に一目散に走った。
消火作業は、されていた。神殿から水の魔法使いが呼ばれていたが、火の勢いは強く乾燥地帯の土地柄が災いした。
水の魔法使いは言った。
これは、火の魔法使いによる放火だと。しかも高位の精霊と契約している魔力の強い魔法使いによる仕業であると。
俺は、信じられなかった。
神殿付属の魔法使いは、人々の為に尽力するものである。
神殿付属の名誉のために、決して悪事などしなかった。
しかし、父親が取引していた黒装束の男たちは……。
幸いなことは、骨董屋は全焼したが、よその家に燃え広がらなかったことだ。
残念なことに父ちゃんも、母ちゃんも、セレスティアも炭になっていた。
呆然とする俺に、それはなぜ燃え残ったのか不思議だった。
俺は、まだ煙のくすぶる中、それに近付いて行った。
そして、すすを掃って抜いてみた。
これもかなりのアンティーク物のはずだ。
それなのに刃こぼれ一つしてない、今、鍛えられたばかりのような輝きをしていた。
「親と妹を殺した火の魔法使いが憎いか?レスターよ」
火事現場で急に話しかけられて、俺はドキリとして振り向いた。
黒装束の男がそこにいた。
背は高くない。
赤毛の中年の男だ。
俺は、「お前らがやったんじゃないのかよ!!」と言う言葉を飲み込んだ。
続けて、男は言った。
「敵を討ちたくはないか? レスター。そう思うなら我らとともに来い。その長刀とともにな」
俺は、こいつの言う事を信じた訳じゃない。
でも、もう俺の家は無くなった。俺に残されたのはこの妖刀だと親父が呼んでいたムネヒラだけなんだ。
こいつらの秘密も分かるかもしれない。
俺は言った。
「ああ、ついて行くよ。何処へ行くんだ?」
「隣国の本部だ」
俺の長い旅路の始まりだった。
(完)
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます