第2話 転校生が来るらしい
――そんな出会いがあってからというものの、今日まで俺らの関係にいざこざなんてものは起きる事なく、こうして今日まで仲の良い関係を築いていた。
「あ!そうそう、なんか今日転校生くるみたいよ?」
肩を並べて海月と歩いていると、いきなりそんな言葉が飛び出してきた。
「どこ情報なんだそれ」
出所不明の情報を元気よく話す海月に、俺は疑問を浮かべる。
「分かってないな~、アタシレベルになれば先生から事前情報貰えるっての。いや~優等生も罪だね~」
人差し指を振りながらキメ顔で言ってくる海月。
なんだか今日は少しご機嫌なようだ。
「てかまなっちの後ろに空いてる席あったっしょ?」
「え?あ~そういえば……ってそうなるとそこに転校生が座るって事か……?」
何の為に存在しているのかよくわからない椅子と机が、俺の後ろに設置されていたのを思い出す。
俺の席は窓際の一番後ろから二番目にあるのだが、その一番後ろの席というのが件の誰も座っていない用途不明の席だ。
「そうじゃないかな?」
その言葉を肯定するように、海月が言う。
ちなみに、俺と海月は何の因果か4月最初に行った席替えで隣同士になっている。
正直隣が海月で助かったと思う反面次の席替えが一生来ない事を永遠と祈っている……冗談抜きで本当に。
「それにしても転校生楽しみだな~、どんな人なんだろ~♪」
るんるんといったステップを踏みながら、ご機嫌な足取りを見せつけてくる。
そんな姿を見ていると、本当子供っぽいなと思う反面、特に落ち込んでもいないのに元気を貰えるような感じがする。
「なんだお前ら、今日も今日とて仲良~く朝から一緒かよ!!」
そんな海月を微笑ましく思いながら見ている時だった。
後ろから少しテンポの速い足音とちょっぴり茶化し混じりな男性の声が聞こえてきた。
「何か含みを感じる言い方に感じるんだが⁇」
俺は後ろを振り返り、声をかけてきた男に向かってそう言葉を返した。
「何も含んでねぇって、ただいつまで友達なんて関係で居るのかなと思っただけだ!」
「いやめちゃくちゃ含んでんだよてかそこまで言っちゃったらもう単なる揶揄いじゃなくて直球なんだよ」
「おっと失敬。てか、その思考に至るってコトはまさか……お前とて意識してんじゃねぇのか?お?」
短めの黒い髪にイケメン。更には高身長を宿した男――
コイツとは中学生時代からの仲で、元々は俺とは違う小学校に通っていった他校の生徒だったのだが、俺の通う中学校が他の小学校の生徒と合同になる学校だったようで、そこで出会ったのだ。今では、親友と言っても過言ではない仲だ。
そしてどういうわけか、一緒の高校に受かってしまったので、今でもこうして仲は続いている。
ちなみに、同じクラスではないのが悲しい所だ。
「ん~?何々~?まなっちってばアタシの事意識してるんだ~?」
海月が湊に負けず劣らずのニヤケ面を浮かべながら茶化してくる。
流石はギャルというべきか、自分の事だというのに全くもって動じず、それ所か湊と一緒に茶化してくる。
「いっ!?いやいやいや、そんなわけないだろ!?」
海月までこの話に乗ってくるという事は流石に想定外だった為、俺は焦りを隠す事が出来ずに必死に否定を示す。
だが、これではかえって逆効果になってしまうのが辛い。
「キャハハ☆バリ焦ってんじゃんうっけるー、マジオモロイわー」
抱腹絶倒を体現せんとばかりに腹を抑えながら笑う海月。
お前からしたら面白いのかもしれないけど俺からしたら地獄なんだが?
なんて朝から賑わっていると、いつの間にか校門前に着いていた。
「にしてもよー、クラス替え無いのって辛いよな」
校門を通り過ぎて早々に、湊がそう呟く。
この南葉高校は、三年間クラス替えというものがない。
普通ならガッカリする事なのかもしれないのだが、俺みたいなのには逆に嬉しい事であったりする。
「そうかな?俺はもうこのままでいいや……新しいクラスに馴染められる気がしないし」
2年生となった今でもぶっちゃけ馴染めているのか謎だと言うのに、また最初からというのはそれだけで胃が痛くなる。
それに、海月が居なければ今頃本当にぼっちofぼっちになっていた俺にとってはクラス替えで海月と離れ離れになるのはとてつもなく避けたい事柄だ。
「まなっちはアタシが居なきゃ今頃ぼっちだったからね~そう思うのも無理はないかな~」
偶然か必然か、そんな考え事をしていたら海月がどこか誇らしげにそう言った。
心を見透かされたのかと内心少しビックリしたのは秘密だ。
「あっ、海月じゃん。おはよ~」
そんな時、海月の名前を呼ぶ女性の声が聞こえてきた。
「おっ、その声は
海月のその様子からして、どうやらその声の主は友達だったようだ。
俺のクラスに花奈なんて子は居ないので、どうやら他クラスの友達のようだ。
「ごめん二人とも、ちょっち顔出しに行ってくるね。先行ってて!」
両方の手のひらを合わせてごめんの形を作りながら言う海月に、俺は笑みを作って言う。
「全然大丈夫だよ」
「あっ湊くーん!みーつけた♡」
俺がそう言って海月を見送ると、間髪入れずに次もまた女性の声が聞こえてきた。
それも、猫なで声のように可愛らしい声が。
「美咲ちゃんじゃーん、何々どしたん?俺探してたん?話きこか?」
「もう♡そんな下半身に支配されてる人が使うような言葉言わないでよ~♡」
そう言って湊の腕に手を絡み付ける美咲と、それに満更でもなさそうな表情をしている親友。
イケメン高身長だからね、しょうがない……しょうがないけどさ、気まずいなおい。
白昼堂々男女の……しかも親友のイチャラブを見せつけられた俺は、二人きりの空間にする為に我さきにと下駄箱に向かって足を速めるのだった。
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