第19話 虹生産ましーん④

「私‥帰る家がないんです‥‥」


さて。このセリフをお嬢様系の美少女から言われたら…どうする?


正直に言うとね‥‥

だからどーしたよ!?そんな事なんで俺に言うねん!と声を大にしてい言いたい。


けどね?迂闊な事に先程のお洗濯の件で好感度を稼いでしまったのでここで見捨てると絶望して岩場から身投げしそうで怖い。

それに‥‥ここで選択を間違えると目の前にいる虹生産ましーんちゃんことシャルルちゃんが究極完全体に進化して『貴方を殺して私も‥‥!』ってなる恐れもある。


なので――


「良ければお話を聞かせて下さい。何か力になれるかもしれません」

「‥‥ありがとうございます‥‥ハム様」


ここで俺が取れる選択肢は『受け入れる』しかないんだよ!悲し事にな!!

そしてそんな儚げな顔で『ハム』とか言われると一発ネタにしか思えないからやめて。


『救世主ハム爆誕!あーっはっはっはっは!お腹痛い!』

(おい!笑うなよ!俺だって耐えてるんだがら!この子…まさかのシリアスブレイカーじゃね?マジで恐ろしい子!)


「ゴホン‥‥えーっとでは私の借りている部屋で申し訳ないですが付いてきてください」

「は、はい…」


俺は顔が引きつるのをこらえながら宿の部屋に向かった。



「どうぞ」

「ありがとうございます」


今借りている部屋――この宿で一番高級なお部屋――には簡易キッチンが併設されている。

なのでそこでお湯を沸かしこの街で売っている産地不明の茶葉から抽出した紅茶?を入れつつばーむちゃんの携帯型カロリー補給品である露店で買ったお茶菓子を出して一応おもてなしの体勢を整えた。


「‥‥ふぅ‥‥あたたかいです」

「それは良かったです…」


粗末なカップに素人が居れたお茶なのに飲む人がお嬢様だとそれだけで優雅に見えるのが不思議だ。


(っふ。これが生まれの差という奴か‥‥)

『ニヒルに気取ってるところ申し訳けないけど‥‥そろそろ良いんじゃない~?』

(‥‥無理)

『なんでよぉ~?メサイア様でしょぉ~?』

(バカ言うな。自ら地雷原に飛び込むんだぞ?どれだけの勇気が必要だと思ってるんだ!)

『愛と勇気だけが~とーもだちさぁ~』

(元気が100倍になっても勇気は100倍にならないんだよ!)


「フフフフ‥‥ハム様はお優しいのですね?」

「ど、どういう事でしょうか?」


やべ!存在が儚げ過ぎてついつい意識から消えてた!


「何も聞かずに私を助けて下さいましたし…それに真剣に向き合って下さっているのが伝わってきて…とても頼もしく思えます」

「それは光栄です」

「それで‥‥ご迷惑でなければ私の話を聞いて頂けないでようか?」


きた!

遂にキテしまった‥‥運命の瞬間だ。


正直聞きたくない。

でも‥‥ここまで来て聞きたくないとかは流石に人としてNGなのでやはり俺に残されたのは『聞く』しかないのだ‥‥クソったれめ!


「‥‥シャルルさんが良ければ‥‥お聞かせ下さい」

「ありがとうございます。では順にお話しさせて頂きます‥‥」


☆★☆


彼女の名は『シャルル・ローレンツ』このクレイルの街から遥か東にある【ニーベルグ】を治める名家、ローレンツ家の三女で【神託】のスキルを持った国内で最も有名な人物だった。


【神託】とは文字通り神の声を聞き民を導く存在で幼少の頃より厚遇されて来たのだが彼女が10歳になった頃にとある寒村に【聖女】のスキルを持った才女が現れたと知らせがあった。


―――そこからシャルルの人生は一転した。


【聖女】も神の声を聞く力がある事が判り、国内に神を声を聞ける人物が2人も居るといずれ対立が起こり国が割れる恐れがあると言う事で詳細は省くが【聖女】の完全下位互換である【神託】を持ったシャルルは国から放逐された。


そして家名に泥を塗って落ちぶれた娘を快く受け入れる程彼女の両親は優しくはなく実家の地下に幽閉されていたのだが『牢を抜けだしクレイルの街にある冒険者ギルドを目指しなさい』と神託が下ったので命からがら牢から逃げだし方々の体で冒険者ギルドを訪れたのだが‥‥


極度の疲労とあの異臭に当てられて虹生産ましーんちゃんになっていたそうだ。


「そうでしたか‥‥それは辛い思いをされましたね」

「はい。ですが今は少し感謝しているのです。最後に貴方様の様な優しい方に巡り合えたので」

「――それは‥‥」


(うわぁー‥‥碌な話じゃないのは予想してたけど‥‥思った以上にヘビーだった!それにさぁ‥‥此処まで裏事情をしちゃったら間違いなく口封じの対象に俺も入る。―――とは言え…話を聞いてしまった以上ココでポイは――ダメだよね~)

『流石にそれは――こんだけ優しくしといて最後は裏切るとか…恨みと言うか怨嗟を買いますよ?』

(怨嗟って‥‥流石に大げさじゃない?)

『‥‥確証は無いですが――あの女には『依存気質』とか『束縛系』とか『ストーカー気質』が有りそうですね!あと精神面が結構ダークな感じしますよ~』


それ完全にアウトじゃね?

なのに軽々しく手出したら――多分『アウト』だと思う。


(なので!保護と言うか暫くは面倒は見るけど最終的にはさよなら出来る距離感を保ちつつ様子をみよう!)

『ふーん…パクっとはしないの?』

(地雷系の疑いアリの女に手を出すのは…俺には無理)

『そう?案外ドライかもしれないよ?』

(その可能性も捨てきれないけど‥‥ともかく!一時的に保護はするけど最終的にはさようならだよって事が伝わる気の利いたセリフが欲しいです)

『えー?‥‥あーじゃぁよく聞いてね?』


ありのままを伝えるのも手だが弱っている女性に追い打ちをかける真似はしたくなかったのでばーむちゃんに気の利いたセリフとアクションを用意して貰ったのだが――



「コホン、自分は口下手なのでこういう時にどういった事を言えばいいかは判りません。ですがこれだけは言えます!」


そこで話を一旦切り、ソファーに座るシャルルさんの横に座り、彼女の手を握りしめた。


「例えシャルル様がどれだけの業を背負って居ようとも!例え世界が貴方を見放しても私だけは貴方の味方です。なのでどんな手を使ってでも貴方を守るナイトになる事を誓いましょう!」


「は、はむさま!」


これが冒険者ギルドで虹生産ましーんちゃんだった子なの?

なんかめっちゃキラキラ光ってるし儚さが当社比3倍になってますけど‥‥ホントに同一人物!?


(これで背中に羽が有ったらマジで天使だわ…ってぇ!このセリフじゃぁ逃げるどころか地の果てまでも付いてきちゃうじゃん!)

『これでかたーい絆で結ばれたねぇ~おめでとう!』

(は、図ったな!図ったな!ばーむちゃん!)

『クフフフフ‥‥恨むなら君の父上を恨むのだな!』

(ば、ばーむぅぅぅ!!)



なんで案内役のスキルが主人マスターを嵌めてんだよ!と製造元バームクーヘン女神様に文句を言おうと決意した瞬間だった。










  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る