消せない未来

桜井直樹

〈1話完結〉

「じゃあ、明日までに仕上げてきてくださいね」

 先生がそう言って、みんなが「はーい」と答えたので、私も元気にそう言いました。

 作文の課題は『私たちの未来』というもので、将来私たちがどんなふうになっているかとか、未来の地球はどうなっているかとか、そんなことを書くというのが宿題です。

 私は家に帰って早速原稿用紙を机に並べました。私は作文は得意です。だって、何でも好きなことが書けるから。

「まりちゃんの作文は、想像力が大きすぎて、まるで小説みたいね」

 小学生でも小説が書けるんだ! って、私はとても嬉しかったのですが、先生は困った顔をしていました。私は作文は得意だって思ってるのに、先生はあまり褒めてくれなくて、いつも『C』しかくれません。

「そっか! 私の作文は、小説みたいだから難しいんだ!」

 だから先生にも、わからないのかも知れません。それで、先生は困っていたのでしょう。

 よーし、それなら今回の作文は、少し簡単なのを書いてあげよう。私たちの未来……そうだなぁ、じゃあこんなのはどうだろう。私は書き始めます。


 二十年後の地球人は、未来のことがわかる書物を発見しました。明日の天気も、一週間後の事件も、三年後の災害も、そして十五年後の戦争のことも書いてありました。いろんな国にいろんな言葉で同じことを書いた書物があるので、それは本物のようです。

 それはその国の偉い人が管理することになりました。そして、その時が来る前に、勝手に都合がいいように書き直していったので、暑すぎる日も寒すぎる日もなくなって、悪い事件も防げるようになります。大きな災害も止められて、戦争もやめることにしました。これできっと世界は平和になります。

 ところがある時、どこかの国の偉い人が、その書物には悪魔がついていると言って、焼き捨ててしまったのです。どこにもそんなことは書いていなかったのに、どうしてそんなことになったんだろうと、いろんな国の偉い人たちが何度も書物を見直しました。

 すると、何故か書物の内容が変わっていて、三年後の災害は一週間後に来ることになっていて、辞めたはずの十五年後の戦争は、二年後に始まることになっていたのです。

 世界中の偉い学者さんたちが集まって考えて、やっと見つけた答えは、みんなが勝手に未来を書き換えたせいで、世界が歪んでしまったのだということでした。元に戻すためには、全部の世界の書物を元の通りに書き直すしかありません。

 世界中の偉い人たちは協力し合って、覚えているところを教え合って、なるべく書物を元通りに近付けていきました。一週間後の災害は先延ばしになりましたが、一冊の書物が焼き捨てられてしまったので、どうしても完全な書物にはなりません。一冊足りない分の歪みは大きい、と学者さんたちは言いました。

 世界の偉い人たちは困り果てて、それじゃあすべての書物を焼き捨ててしまおう、ということに決めます。最初からなかったことにしてしまえば、未来のことはわからなくなるからです。世界中の人たちも、「すごいぞ!」と拍手をしました。

 偉い人たちは、未来のことがわからなくても、みんなで協力して災害を乗り越えて、戦争をしないようにしよう、と話し合いました。

 そして世界中の偉い人が集まって、みんなでズルをしないように見合いっこしながら、未来がわかる書物を火の中に放り込んで焼いてしまいました。きっとこれで世界は平和になると思います。


「ふふふ、でーきたっ」

 私は少し満足しました。

 本当は、「実はズルをした人がいて、最後にまだ一冊だけ書物が残ってるのでした。そしてそれは私が持っているのです」って書きたかったのですが、これは誰にも教えてはいけません。だから私は、代わりにこう付け足しました。

「明日から始まる戦争が終わればね」

 うーん、でもこれじゃあまた先生に「小説みたい」って言われちゃうかも。やっぱりこれじゃダメかなぁ?

 私は筆箱から消しゴムを出して、初めから消して書き直そうとしました。

「あれ? あれ?」

 けれど、どうしても文字が消えません。原稿用紙はもうなくなってしまったし、最初から書き直すこともできないのです。仕方がないので、原稿用紙を学校にもらいに行くことにしました。私はちゃんと原稿用紙をもらえたら、この作文を焼き捨ててしまうつもりです。ちゃんと明日が来ればいいのですが。


                                〈了〉

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消せない未来 桜井直樹 @naoki_sakurai_w

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