第31話 終わらない戦い (第一章 終了)

 JJが撃たれ瀕死の状態になり、アリーナの緊張が極限に達した時、彼女はその情動を元に、持てる限りの威力で爆裂魔法を放った。

 そして同時に、味方に保護バリア治癒ヒールがかかる様、補助魔法も併せて放ったのだ。

 複数同時詠唱は、かなり修行した熟練魔法使いでないと出来ないとされていたのだが、極限状態に追い込まれたアリーナが放った奇跡の一発となった。


【……機能回復。アリーナ、状況はどうなりましたか?】

「はは……モルツ。周りに敵はいる?」

【高出力アクティブレーダー起動……後方十mに敵数1】

「えっ?」


 モルツの言った方を見ると、サルワニが魂の抜けた様な呆然とした顔でその場にへたりこんでいた。

 あーっ。私と距離が近すぎて爆風に巻き込まれなかったんだね。運のいい人。


 やがてアルマンやダルトン達が恐る恐るアリーナに近づいて来て、リアクターの爆発でない事がわかってホっと胸をなでおろした。

 そしてサルワニは、彼らに捕虜として拘束された。


【他に敵影を認めず。進軍をお勧めします】

「あー。でも、歩けなくなっちゃった。

 魔力もすっからかんの様だし、どうすればいいと思う?」

【……応急措置として、歩行ロジックを両手にアタッチする事が可能です。

 歩行は逆立ちになりますが、毎分五十m程で移動可能です】

「ほー。そりゃ便利……って、それじゃ、お尻丸見えじゃない!!」


 こうしてアリーナは、レジスタンス達といっしょに盆地を抜け、1A要塞への合流に成功した。


 ◇◇◇


 旧王国内エルフ進駐軍本部。


「どういう事だ? アンドロイドのリアクターに当ててしまったのか?」

「いえ。放射能は検出されていません。なんらかの通常火力兵器と推定しますが、

正体不明です。引き続き調査と、負傷者の救助・捜索を進めます」


「それにしても、死者・負傷者含め千人を超えるだと? 

 そんな損耗、女王様になんとご報告すればいいのだ。

 それに、サルワニ少佐も行方不明MIAとは……」

 進駐軍本部長は頭を抱えた。


「本部長。本国軍務省から通達です。現時点を持って対アンドロイド・レジスタンスの作戦を一時中止。負傷者、行方不明者の救助捜索と、敵新型兵器の詳細調査を優先せよとの事です」


「分かった。すぐに現場に指示を出せ。

 ……わしは、これから……辞表を書かねばならん」


 ◇◇◇


「スフィーラ。あの……その……ごめん!」メランタリが頭を下げる。


「えっ、何の事?」

「いや……6Cで私、JJと……」メランタリは顔から火が出るんでは無いかと思うくらい真っ赤になってそう言った。


「あー……私こそごめんね。二人を置いて先に出撃しちゃって。

 でも、あの時は一刻を争っていて、あなた達を見つけられなくて……」

 アリーナはすっとぼけた。

「あっ、そう……それはいいんだけど……」メランタリは黙ってしまった。


 そう。これでいいのよ。私は所詮、機械の身体だし、JJとメランタリがお互いの心のすき間を埋め合ったって、あたしにとやかく言える筋合いはないわ。

 私がアンドロイドだという事はメランタリにも告げたけど、JJ同様、友人に変わりないと言ってくれた。それだけで十分じゃない……


【しかし、スフィーラの身体でも性交可能ですが?】

(馬鹿! やればいいってもんじゃないでしょ!

 ……そうだよ。JJの心に空いた穴は、スフィーラでは埋める事が出来ないよ)


 1A要塞に到着して数日後、エルフ側が今回の作戦を一旦中止した事が判明し、そこに集まったレジスタンス達は、ほっと胸を撫でおろした。しかし、あの爆発が何だったのか……真実を知るのはアリーナだけで、レジスタンスの間ではスフィーラの秘密兵器だとのうわさが飛び交っていた。

 サルワニ少佐は貴重な人質として丁重に扱われ、日々アルマンと面談? を重ねている様だ。


 両足の膝関節はまだ動かないが、アルマンがそのうちメリッサをここに呼ぶと言ってくれた。モルツによると、一応体内のナノマシンという奴が、ちょっとずつではあるが修復を進めている様だが、損傷が大きい場合、修復にも時間がかかるとの事だった。


 露地からこの1A要塞まで逆立ちで移動したが、専用装備だったためお尻とTバックが丸見えだったのは一生の不覚だ。

 今はとりあえず、スチール製の松葉杖を突きながら歩行は出来るので、JJがいつも寄り添ってくていれる。あの時のヒールが効を奏しJJは数日で回復したのだが、そもそもJJが致命傷を受けていた事自体、アリーナしか知らない。

 

 でも、これからどうなるんだろう?

 生き延びてはいるが、状況が良くなっている様には感じられない。

 むしろこの間のエクスプロージョンで、緊張は増した様にも感じている。


 しかし……

 せっかくこうして第二の人生? を過ごせているんだ。

 私は王族として、国民の為に出来る事をして行くだけ。

 私はまだまだ経験も足りないし、自分ひとりで考え込まずに、みんなの意見を聞きながら進んでいくのがいいわよね。


 アリーナはそう考えながら、空を見上げた。


(第一章 終。続く)




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