思い出その6 私はこの時が一番楽しかったの♪(蓼原仁美 高校2年生)

「ママぁー♪ ママぁー♪」

「はいはーい、ママでちゅよー♪」

「ばぶー♪」

 ガラガラガラガラガラガラガラガラ……♪

 よだれかけとおしゃぶりをした一花ちゃんのことを、私がウサギがプリントされたピンク色のガラガラであやしてあげる。

 まさか一花ちゃんにこういう甘えん坊さんな一面があるなんて思わなかった。

 私は一花ちゃんから「私の事を赤ちゃんみたいにたくさん甘やかして、ママみたいに接してほしい」なんてお願いされた。

 最初は、一花ちゃんにそんなお願いされて驚いた。

 でも、いざ始めてみたらこれまで聞いたことがないような、甘えん坊さんな声で私に甘えてくれるのがうれしくて、私も一花ちゃんのママをするのが楽しくなってきた。

 しかも私が赤ちゃんの時のおもちゃとかを、おばあちゃんが大事に保管してくれたおかげで、その日のうちにすぐに赤ちゃんプレイをしてあげることができた。

「ママぁー♪ いちかちゃん、プリンたべたいのー♪ うーうー♪」

「はいはーい、いちかゃんーん、プリンでちゅよー♪」

 私はスプーンでプリンをすくいとり、そして一花ちゃんに食べさせてあげる。

 一花ちゃんは頬を赤くしながらそれをおいしそうにもぐもぐと食べている。

 そんな一花ちゃんがとても愛おしくなる。

「はーい、よくもぐもぐできましたでちゅねー♪ いちかちゃん、えらいえらいでちゅよー♪」

「ママー、ばぶー♪ いちか、ママのことだいちゅきー♪」

「ママもいちかちゃんのことだいちゅきー♪」

 楽しい。

 嬉しい。

 幸せ。

 この時の一花ちゃんは、親からのプレッシャーと勉強のストレス、学校での優等生のイメージに押しつぶされて精神的に限界だったらしい。

 後にも先にも、こんなふうに一花ちゃんが甘えてくれたのは結局この一度だけだった。

 あくまでもこれはおままごと。

 ごっこ遊びでしかなくて、一花ちゃんにとってはストレス発散のための行為というのはわかっている。

 それでも、一花ちゃんが私にしか見せてくれない本当の姿を見せてくれて、こんなふうにたくさん甘えてくれて、

 そしてこんなに可愛い声で私に好きって言ってくれるのがとても嬉しくて、幸せな気持ちで胸がいっぱいになった。

(この時間がいつまでも続けばいいのになぁー)

 二人で遊んで、勉強して、二人で声のお芝居をして。

 そして一花ちゃんが望むなら、赤ちゃんプレイにだって付き合ってあげて。

 こんな幸せな時間が、永遠に続けばいいのに……。

「おんぎゃあー! おんぎゃあー! ママぁー! ママぁー!」

「あ、はいはい、いちかちゃん、どうちたんでちゅかぁー?」

「ぶぅー、ママがいちかにかまってくれないのぉー♪」

 私が一瞬ぼーっとしてたせいだろう、一花ちゃんがぐずってしまった。

 私は一花ちゃんに笑いかける。

「そんなことないでちゅよー♪ ママはいちかちゃんのことだいちゅきでちゅよー♪」

「おんぎゃあー! おんぎゃあー! ママー! ママぁー! よちよちちてー♪」

「はーい、いちかちゃーん♪ よちよちでちゅよー♪ よちよーち♪」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る