思い出その5 私と一花ちゃんの将来の夢(蓼原仁美 高校2年生)

 その日、私たちはDVDでレンタルした女の子向けのアニメを見ながら、お菓子を食べてくつろいでいた。

「このアニメずっと好きなんだよね。だから定期的にレンタルしちゃうの」

「うん、私もこれ好き」

 私は一花ちゃんにしなだれかかった。

「どうしたの、仁美?」

「一花ちゃん、本当にありがとね」

 私は一花ちゃんのぬくもりを感じていた。

「誕生日プレゼントのイヤホンもだし、一花ちゃんのおかげで、私、いろんな世界を体験することができた」

「どうしたのよ、いきなりそんなこと言って」

「一花ちゃん、凄く勝手な夢なんだけど、言ってもいい?」

「夢?」

「私ね、私と一花ちゃんの二人で、将来、舞台演劇がやりたい」

「舞台演劇?」

 意外な提案だったらしく、一花ちゃんはきょとんとした。

「私、舞台演劇が凄く好きで、生のお芝居の迫力ってすごいんだよ」

「それは分かるけど、私たちが好きなのって声のお芝居だし、朗読劇はわかるけど、舞台演劇って言われるとちょっとピンとこないかも」

「あのね、声優さんが企画した即興のアドリブ劇とかがあるの。声優さんが全部アドリブで演じる即興のコメディ舞台劇とか」

「へぇ、そんなのあるの? 仁美、よく知ってるわね」

「うん、だって私、一花ちゃんの生のお芝居をずっと聞いていたいから、色々調べたりしたの」

 一花ちゃんは本当に知らなかったらしく、一花ちゃんは感心したような眼差しで私を見た。

「あのね、イヤホン越しの声でも一花ちゃんの声は素敵だよ。でもやっぱり、私は一花ちゃんの生の声が一番好き。広い舞台に一花ちゃんの透き通った声が響き渡って、それを私が一番近くで聞いてるの。それを想像するだけで胸がドキドキしちゃう。だから私、いつか一花ちゃんと一緒に舞台の上でお芝居したいな。一花ちゃんのお芝居、私が一番近くで聞きたいの……あの、ダメ、かな?」

 私はつい一方的にしゃべりすぎてしまったことに気付いて、最後はしどろもどろになってしまった。

 一花ちゃんはちょっと驚いたような顔をしている。もしかして引かれちゃったかな?

 でも一花ちゃんは顔をほころばせた。

「ううん、そういうのもいいかもね」

「……うん、……うん! なんかいい! 楽しそう!」

「ホント? いいの?」

「うん、ていうか、仁美の方からそんな夢を言ってくれるなんて思わなかった。ちょっと嬉しいかも」

「ううん、全部一花ちゃんのおかげだよ」

 今の私にとって、もはや一花ちゃんは親友を超えて、私の生きる意味そのものになっていた。

 ……今はもう高校二年生の八月。この学校生活はあと一年半くらいしか残されていない。

 今は夏休みだから、こんな風に二人きりで一緒に過ごせるけれど、

 …こんな風に一花ちゃんに甘えていられる時間は、もうほとんど残っていない。


 一花ちゃんと私は、同じ大学にはいけないと思う。

 色々なお話をして、一花ちゃんのお家の事情はよく知っていた。

 お父さんが医者家系で、一花ちゃんのお兄ちゃんと同じように、一花ちゃんもお医者さんの道に進むことが望まれている。

 いや、一花ちゃん自身もそうした道に進もうと考えているのは知っていた。

 一花ちゃんは、たまには愚痴交じりでお父さんに不満を口にすることはあった。

 でも、人の命を助けるために一生懸命なお父さんは好きだと、大人になったら自分も人を助ける生き方がしたいと、そんな風に私に話していた。

 だから一花ちゃんは、私じゃ到底入れないような、かなり偏差値の高い大学に入るだろう。

 今は学校でも放課後でも休日でも、私と一花ちゃんはずっと一緒にいる。

 でも大学生になった後はそうはいかない。

 一花ちゃんが他にお友達を作ったり、さらに勉強に専念するするために放課後や休日に遊ぶ機会もなくなってしまうかもしれない。

 どんどん一緒にいられる時間がなくなって、いつか私と一緒に声のお芝居をしていたことも、なにもかも忘れられてしまうかもしれない。

 そんなのはイヤだった。

 一花ちゃんが私から離れるなんて、考えるだけで胸が張り裂けそうになる。

 だから私は、一花ちゃんと同じ夢を持つことで、一花ちゃんとずっと一緒にいたいと思った。

 一緒の夢を見てれば、きっとずっと一緒にいられるよね、一花ちゃん……。


「………………………………」

「一花ちゃん?」

 気付くと、一花ちゃんは少し悩んでいるような、そんな顔をしていた。

「あのさ、仁美。それで私ね……私からも、仁美にちょっと相談っていうか、お願い事があるんだけど……」

「え? お願い?」

 突然そんなことを言われてきょとんとする。

「凄くお願いしにくいことなんだけど、仁美にならいいかなって……。正直、とっても恥ずかしいんだけど……」

 そういう一花ちゃんは本当に恥ずかしそうだった。

 それに、どこか少し思い詰めている感じもする。

「うん、一花ちゃんのお願いだったら、私、なんでも受け止めるよ」

「だから、なんでも言って欲しいな」

「じゃあ、いうね」

「その前に約束してほしいんだけど、他の人には誰にも言わないでほしいの」

「うん、絶対誰にも言わないよ」

 言うわけがない。一花ちゃんの秘密は、私が全部ひとり占めにするんだもん。

「一回だけでいいんだけど、したいことがあるの……」


「私の事、仁美に受け入れて欲しいの」

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