4-7 私が死んで一花ちゃんが他の子と付き合うなんて、ハッピーエンドじゃないよね?
学校にたどり着く頃には、私はその異変に気付いていた。
教会から火の手が上がっていたのだ。
「まさか――――!」
私は教会の方へと向かった。
教会の前にいたのは、仁美ではなく七緒。
だがその七緒の姿ははっきり言って異様だった。
片手にはバールを手にしていて、火の明かりで照らされる彼女は真っ赤な血にまみれていた。
そして燃える教会を、恍惚とした目で見つめていたのだ。
「七緒ちゃん!」
私が声をかけると、七緒はこちらを見た。
「一花! やった! やったよ!」
七緒の声は、まるで小さな子供のように無邪気だった。
「私、蓼原のこと始末したよ! これで何もかもおしまい! ハッピーエンド! 私は一花とやり直すの! あっはぁー☆」
狂乱して喜ぶ七緒。
一花は困惑したが、
要するに彼女は、仁美を殺したということだ。
「嘘、でしょ?」
「あははははははは♪ ゲホゲホっ! はぁ、はぁ、はぁ♪」
しばらくそうしていた七緒は、やがて落ち着きを取り戻した。
「私、一花から頑張ったご褒美が欲しい」
その目は恍惚に満たされ、怪しい輝きを一花に向けていた。
「ね? キスしていいよね?」
「え?」
そう言って七緒は、うっとりとした目で顔を近づけてきた。
「それはダーメ☆」
「あっ…………!」
彼女は突然、左目をおさえた。
「い、痛い! 痛い痛い痛い痛い!」
「七緒ちゃん!」
「なんで……! なにが……!」
七緒の左目が――!
七緒の左目から青い液体がこぼれ、真っ赤な眼球にはサソリを模したハート型のタトゥーが刻まれている。
七緒は意識を失い、そのまま倒れた。
「七緒ちゃ――!」
その瞬間、私の意識も突然途絶えた。
まるで時間が巻き戻されたように教会の中は静寂に包まれていた。
だが次の瞬間には異変が七緒の肉体を襲う。
全身がすさまじい痛みに襲われた。
「ああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
全身から血で出て、あざだらけ。
それは七緒が仁美を暴行した傷とまったく一緒だった。
気づけは周囲は炎が立ちのぼり、そして仁美は平然とした様子で七緒を見下ろしていた。
「ああ、ダメダメ。ぜーんぜんダメぇー」
仁美はつまらないものを見るような目で七緒を見る。
「苦痛に満ちた声を聴くのは好きだけど……。やっぱり七緒ちゃんの声じゃ、全然私の心は満たされないなぁ」
その仁美の声は
「ねぇ知ってる? 一花ちゃんの苦しんでる声ってね、凄く素敵なんだよ? やっぱり一花ちゃんの痛がって苦しんでる声の方が、ずっと素敵」
「な……んで…………!」
「なんでって……。とっくに知ってるでしょ? 七緒ちゃんが自分で言ってたじゃん」
仁美は七緒に勝ち誇ったように微笑んだ。
「私、妖魔だもんね。じゃあね、バイバイ♪」
そう言って仁美は教会を立ち去る。
「……あ、…………ああぁ! ああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
「ぎゃあああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ――!」
「いやだ! 助けて! 一花、助けてぇえぇぇぇえぇぇぇぇぇぇえぇぇぇぇぇぇ――!」
「いやあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
「ん、んん……」
気付くと私は意識を失って、地面にはいつくばっていた。
ようやく身体を起こして、周囲を見回す。
「な、七緒ちゃん……」
「七緒ちゃん、どこ?」
目の前にいたはずの七緒はどこにもいなかった。
意識を失う前、七緒は苦痛に悶え、そして左目の眼球に、サソリを模したハート型のアザが浮かんでいた。
そして意識が途切れた瞬間に脳裏にまたたいたビジョンがフラッシュバックする。
全身が傷だらけで倒れる七緒の姿、それを見下ろしてあざ笑う仁美。
「まさか、七緒ちゃん――! 七緒ちゃん!」
燃え盛る教会に向かって叫ぶ。
すると、炎に揺らめきながら人影が現れる。
燃えさかる教会からは仁美が平然とした様子で現れた。
凄まじい勢いで上がる炎と煙を浴びているのに、仁美は平然とした顔で通り抜けてくる。
その姿を目の当たりにして、やっぱり仁美はもうこの世の存在ではないのだと、私は改めて感じた。
「ひ、とみ……」
「一花ちゃん、ごめんね」
「え?」
「せっかく一花ちゃんが私のこと誘ってくれたのに。本当は楽しいお泊り会になるはずだったのに。でも、明日からはずっと一緒だから♪」
そう言って仁美は私を抱きしめる。
「一花ちゃん、大好き♪」
まだ理解は追いついていないが――、
(私のせいだ……)
私の努力は何もかも無駄だったということだけはわかった。
(私のせいで、同級生の子たちが何人も――)
それが分かったとたん、私の感情がとうとう壊れた。
「あ、ああぁ……! ああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
「一花ちゃん?」
私仁美にしがみき、わんわんと泣き続ける。
「私、私のせいで……! 私のせいで何人も何人も何人も! いやだ! いやだいやだ! もうこんなのいやあぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
いまさら後悔してももう遅いのはわかっている。
でも、それでも私は涙を止めることができなかった。
「一花ちゃん」
そんな風に泣き続ける私を、仁美は優しく抱きしめた。
「一花ちゃんは優しいね。安心して、一花ちゃんは何も悪くないよ。だから泣かないで、よしよし♪」
私の背中をポンポンとしながら、仁美は私の耳元でささやく。
「大丈夫。一花ちゃんの事は、私がうーんと甘やしてあげるから♪」
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