4-6 一花ちゃんのこと何も知らないくせに、おっかしい♪
「仁美、遅いなぁ」
私は自宅で仁美を待っていた。
仁美は一度家に帰ってお泊りセットの準備と、あとはレンタルショップで面白そうな映画やアニメを探してから来ると言っていた。
私はその隙に、枢木みくりへ、仁美のカセットテープを送った。
……結局勇気は出なくて、あのカセットの中身を聞くことはできなかったけど。
だが、とうとう犠牲者が出てしまったのだ。私が甘く考えていたせいで。
そこまで分かってても、結局中身を聞くだけの勇気なんか持てず、私はみくりさんにカセットテープをそのまま送ることにしてしまった。
私は郵便局で郵送の手続きをして家に戻り、そして仁美を待っていたのだ。
……だが時間はそろそろ17時を回ろうとしていた。
レンタルショップでDVDを探すにしても、少し時間がかかりすぎている気がした。
「ふあぁー……」
突然目の前がぼんやりとし、強い睡魔が襲ってきた。
ここ最近、不安や悪夢に苛まれて、ロクな睡眠がとれていない。
そのせいか急激な眠気を感じ始めた。
だけど今は仁美を待っているところだ。
そう思いながらも、私はウトウトしながらそのままリビングのソファで眠ってしまった。
「はぁ……私もバカなのかなぁ……。でももう無理かも。精神的に無理」
薄暗い教会の中、そこで仁美が頭から血を流して倒れていた。
「てゆーか、血、出るじゃん。本当にコレが悪霊なの? ま、どっちでもいいんだけど」
七緒は仁美を教会に誘い出し、バールで背後から襲い仁美を気絶させたのだ。
「……………………ん」
「目、覚めた?」
「…………七緒ちゃん?」
「ああ、アンタに名前呼ばれるとなんかムカってなる」
のんびりとした仁美に対して、七緒の声は冷たかった。
「ねぇ、そろそろ聞かせてくれない? ねぇ、睦月とハルカ、アンタが消したんでしょ? あの子たちは今どうなってるの?」
「なに言ってるの?」
「いいかげんとぼけるのやめてくれない? ホントにイライラするんだけど」
「………………………………」
「喋らないなら殺すよ? あーもうイライラするしさっさと殺しちゃおっかなぁ」
七緒は苛立ったように、バールの先端で教会の床をガリガリと削る。
「ていうかさぁ、アンタの事は一年の時から嫌いだったんだよねぇ。どんくさくて要領悪いくせに、一花にさんざん甘えっぱなしでさ。あんたなんか一花にふさわしくないのに、友達ってだけで一花に守られて。本当に一年の時から、目障りで本当に大嫌いだった」
「………………………………フフ♪ あははははははははははははははは♪」
すると、仁美がクスクスと、次第にカラカラと笑い出した。
「なに笑ってるの?」
「やっぱりそうだよね」
その仁美の声は、これまでののんびりとしたものから打って変わって、まるで嘲りの雰囲気を感じさせるものになっていた。
「知ってたよ、私。七緒ちゃんが一花ちゃんの事、私と同じ意味で好きってこと」
「………………………………」
「だから私にいやがらせしてたんでしょう?でも、そんなことしたから、七緒ちゃんは一花ちゃんからかえって嫌われちゃったんだよ。一花ちゃん、本当に真面目でやさしいから。だからもし私がいなくても、七緒ちゃんは一花ちゃんの恋人どころか友達にもなれなかったと思うの」
その言葉は図星だっただろう。
七緒が仁美の事を影でいじめていることを一花はよく知っていた。
だから一応クラスメイトとしてそれなりの付き合いはある一方で、一線を引かれていたことも理解していた。
「だいたい、七緒ちゃんは一花ちゃんの事、何を知ってるの? 何も知らないよねぇ?」
だが、仁美の話はそこで終わらない。
「私は知ってるよ、一花ちゃんの本当の夢。それに、一花ちゃんが他の誰にも知られたくない、秘密の願望も」
仁美は勝ち誇るように七緒の感情をあおる。
「七緒ちゃんなんて一花ちゃんのこと何一つ知らないくせに、おっかしー♪ あはははは♪」
ケラケラ笑う仁美、反対に七緒の形相は凄まじい憎しみに彩られる。
七緒はバールを振りかぶると、そのまま先端を仁美の足に突き刺した。
「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
仁美が激痛で悲鳴を上げる。
「はぁ……はぁ……はぁ……」
七緒は憎悪に彩られた眼差しで仁美を見る。
「フフ♪ もうアンタが人間か悪霊かなんてどーでもいいや」
そして恐ろしい笑みを浮かべた。
「アンタのこと、睦月とハルカが苦しんだ分だけ、さんざん痛めつけて――。最後には火あぶりにして殺してやるよ」
「――――――――っ!」
私は不意に目を覚ました。
私がうたた寝をしていたのはせいぜい10分くらいだろうか。
(今の夢、まさか――!)
これまでの悪夢が全て現実の出来事なのだとしたら、今のももしかして……。
私は七緒に通話をした。
しばらくすると七緒が出た。
「七緒ちゃん!」
『……………………一花?』
「ねぇ、今どこで何してるの!?」
『……………………』
七緒は黙っている。私は質問を重ねる。
「ねぇ、もしかしてそこに仁美もいるの? 仁美に何かしたの?」
『……………………』
それでも七緒は何も言おうとしない。
だが、状況を考えればその無言は「イエス」と同じ意味だった。
「お願いやめて! 仁美に酷いことしないで!」
『一花』
七緒の重く低い声。
『悪いけど一花、私はやっぱりコイツは許せない。ゴメン』
それだけ言われて一方的に切られてしまった。
「七緒ちゃん!」
私はかけ直すが、七緒ちゃんが応じることはなかった。
私はとにかく学校へと向かった。
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