2-1 一花ちゃんも死んじゃえばいいんだ!
私と仁美は隣に座り合って、二人で作った声のお芝居をイヤホン越しで聞いていた。
こうして動画サイトに投稿した自分のお芝居を、自分で聞くことへの抵抗感もなくなっていた。
最初のうちは、顔から火が出るくらい恥ずかしかったけど、仁美は私の演技をいつも褒めてくれる。
だから気づけば自分の声をイヤホンで聞くのも抵抗感がなくなっていた。
「一花ちゃんの声、本当に素敵だなぁ♪」
仁美はいつでも私の声を褒めてくれた。
照れ隠しみたいに、私も仁美の事を褒める。
「仁美だって上手だよ。もしかしたら私の方がいつか抜かれちゃうかも」
「そんなことないよ。私、一花ちゃんの声のお芝居、大好きだもん」
仁美は私の声優のまねごとに付き合ってくれていた。
ある時私は学校の裏手にある古びた教会で、一人でこっそり声のお芝居をしていた。
それをたまたま仁美に目撃されたのだ。
よりにもよってクラスメイトにバレてしまって、顔から火が出るくらい恥ずかしかったけど、
仁美は私の演技をたくさん褒めてくれた。
恥ずかしかったけどとても嬉しかった。
これまでの人生が灰色に色あせて感じられるほど、仁美に私の声を褒めてもらえた時、私の心は甘い幸福感で満たされたのだ。
それ以来仁美の前で演技をしたりしているうちに、仁美も見様見真似で私の演技に付き合ってくれるようになった。
そして今では二人で録音した声のお芝居を動画サイトに投稿しちゃったりもした。
そこそこ再生数が回ってて嬉しかった。
私にとってただの息抜きで始めた声のお芝居だったけど、
いつか私も声優になりたいな……なんて、今はそんな風に思ってた。
「私たち二人で作ってるから仕方ないけど、なんか女の子同士の恋愛モノばっかり作っちゃってるね」
最初に私がやっていたのは朗読用の台本とか、アニメやキャラのセリフのモノマネとかだった。
でも仁美からのアイデアで、今は女の子同士の恋愛をテーマにしたボイスドラマを作っている。
私たち二人でいろんなシチュエーションを考えて、二人で台本を作ってお芝居をしていた。
……たぶん仁美は、私に対して親友以上の気持ちを持っている。
それはいわゆる恋愛感情、というものなんだろう。
一緒に過ごしてて、それはなんとなく感じられた。
(……私は、どうなんだろう)
正直、私は恋愛ってよく分からない。
でも、仁美と一緒のものかは別として、私も仁美のことは大好き。
でもこの大好きっていう気持ちが、友情なのか愛情なのか、私にはよく分からなかった。
「でも一花ちゃんのヤンデレな女の子の演技、凄く人気だよね。ほら、一花ちゃんの演技、こんなにたくさんの人たちから褒められてるよ!」
仁美は楽しそうに私がほめられてるコメントを眺めてる。
「私は全然ダメだなぁ。一花ちゃんにはかなわないや」
「そんなことないよ。仁美の声だってとってもかわいいもん」
「えへへ、ありがとう」
「でも私、やっぱり一花ちゃんの声が一番好きだよ」
面と向かってそんな風に褒められて、私の顔はついほころんでしまう。
「私ね、夢があるの」
そう言ってうっとりと熱っぽい目で私を見てくる。
「一花ちゃんと私の二人で、舞台演劇がしたい」
「舞台演劇?」
「うん。私ね、一花ちゃんの声のお芝居、すっごく好きだよ。イヤホン越しに聞く声も好きだけど、やっぱり生の声の迫力って大違いだし。だからね、いつか二人で舞台に立って、二人で演劇がしてみたい。朗読劇でもいいし、アドリブの即興劇でもなんでもいいけど、とにかく一花ちゃんのお芝居を、もっと生の舞台で聞きたいなって。そんな一花ちゃんの隣に、私も一緒にいたいの」
仁美は将来の夢を語る時、本当に口数が多くなる。
そんな仁美を見ていると、こちらまで嬉しくなってきた。
「いいね、その夢。とても素敵」
私は笑いながらその夢を肯定した。
「私もいつか、仁美と二人で舞台に立ちたいな」
「じゃあなんで裏切ったの?」
「え?」
気付けば仁美は私の目の前に立って、私の事を見つめていた。
でもその目はそれまでの熱っぽい眼差しではなく、私を非難する軽蔑の眼差し。
見たことのない仁美の冷たい眼差しに、私の心は串刺しにされた。
「私は頑張ったのにどうして一花ちゃんは頑張ってくれなかったの?」
「私はあんなに頑張ったのに、どうして一花ちゃんはそんな私の事を嫌いになっちゃったの?」
「私はただ一花ちゃんに認めてもらいたくて頑張ったのに!」
「私は親もいなくて独りぼっち」
「そんな私のたった一つの夢まで一花ちゃんは私から奪った」
「なのに一花ちゃんはパパとママに守られて今ものうのうと生きている」
「ねぇ? どうして私だけがこんな目に遭ったのに、一花ちゃんはまだ生きてるの?」
「ねぇ? ねぇねぇねぇねぇねぇ?」
「ねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇ!」
「ねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇ!」
「一花ちゃんも死んじゃえばいいんだ!」
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