好きまでの距離10 Side 赤松太陽

 十二月はまだ日が短い。少しずつ夕焼けに近づいていく。

「あっ、アヒル!!」外の触れ合い広場に来た僕らは、時間を忘れた様に水族館を楽しんでいる。


 アヒルにエサをやって、亀が泳ぐのを見て、ペンギンが行進するのを一生懸命写真に撮ろうとして……。


「そろそろ、帰ろうか?」僕の声に、ビクッと肩を震わせる柚子さん。


「そっ、そうだね……」声に元気が無い。


 それでも、僕らは手を繋いだまま、帰路へと向かう。


 帰りのバス、行きとは違い微笑むけど、どこか元気が無い様だ……。


「街明かりが綺麗だね?」


「うん……」


「まだ五時前なのに、暗くなって来たね?」


「うん……」時折、小さくため息をつき、窓の外の景色を眺める柚子さん。


 凄く不安になる……。


「あの……」聞いてみようかな?


「ん?」


「ゴメンね、何でも無い」やっぱり気になる。


「あの……」


「なぁに?」ゆっくりと僕の方を見る柚子さん。


「どうかした?僕、何かしたかな?」意を決して彼女に問い掛ける。


「え?ゴメンゴメン、何でも無いよ?少し疲れちゃったから」


「そっか……、休んでても良いよ?バスが着いたら教えるから」


「じゃあ、少し休もうかな?それと……お願いしても良い?」少し、トロンとした目で僕を見る柚子さん。


 心臓の音がドクンと鳴った。


「なっ、何?」


「着くまで、手を繋いでいて……」


「……うん」さっきまで繋いでいたのに……さっきまでとは全然違う……。


 温かくて、柔らかいのを妙に意識してしまう。


 遠くを見よう、額を窓に当てると、今の僕には心地良い位の冷たさで……そっと隣を見れば僕の肩に寄り添って眠る君……。


 早く着かないと心臓が持たないよ……でも、ずっとこのままでいたいよ……。


 バスは走って行く……。今日は、信号機に良く止まる……それが嬉しくて……ちょっとだけドキドキして……。


 何度そんなのを繰り返しただろう?


 街につく頃には、辺りは真っ暗になっていて……。


『次は……次は……』どうやら、時間は永遠には続かないらしい……。


「柚子さん……?」軽く揺すって起こすと、ボウッとした顔の彼女が、ゆっくりと目を覚ます。


「おはよ……太陽君……」


「おはよ……柚子さん」少し照れくさそうに言いながら次が停車バス停だと言うと、少し慌てて忘れ物のチェックをしていた。


 名残惜しいけど、まだ今日は終わっていない。


 バスを降りると、やっぱり風が強くてバスの中のとの寒暖差で、少しキツい。


 隣を見ると、やっぱり柚子さんも辛そうで、


「寒い?」なんて当たり前の事を聞くと彼女は、はにかんで「少しね」と笑った。


 だから、「あっ……」


 だから、コートの右ポケットに彼女の手の平をお招きした。


「温かいでしょ?」「……うん」


 何も言わずにしばらく街の中を二人歩く……。


 クリスマスソングとキレイなデコレーションの街並みを二人歩くけど、心臓の音が煩くて良く聞こえない……。


「ねぇ、太陽君……ちょっと遠回りして帰らない?」

「うん、僕は良いけど時間大丈夫?」時間はもう六時を過ぎようとしている。あたりは真っ暗だ。


「遅くなりそうなら、太陽君に送って貰えって」彼女は少し照れ臭そうにゴメンね?と笑った。


 彼女が、こっちこっちと僕を引っ張って行ってくれた先にあったのは、全長5メートルの大きなクリスマスツリー。


 意外にまだ人は少なく、もしかしたらこれから待ち合わせの人達が増えるのかもしれない。


「うわっーー!!やっぱり、大きいねーー」某遊園地程では無いけど、やっぱり大きい。街中で雨に濡れない様にするにはこれ位の大きさが限界なのかも知れない。


 やっぱり、大きいなぁ……。


 少し、上を向いて口を半開きにして見ていると、

「あっあの太陽君!!」柚子さんが、急に緊張した声を出すから、少し驚いてしまう。


「どっ、どうしたの?」柚子さんが大きな手提げをガサゴソやり始める。


「あのっ!!そのっ!!今日はメリークリスマスだから!!」彼女は一つのラッピングされた紙包みを僕に差し出す……。いくら鈍感な僕でも分かるクリスマスプレゼントだ。緑の包装紙に赤くてラメが入ったリボン。正直、こうなる事を考えていない訳じゃ無かった。


「あっ開けても……良い?」「……うん」


 近くのベンチに二人で座って、僕はラッピングを丁寧に破かない様にシールを剥がしていく。


 それはオレンジ赤ブラウンと少しの青のボーダーのマフラー。

「凄いなぁ……」目を見開いて、両手に広げて思わず感嘆のため息をつく。

 でも、少し……。


「ゴメンね!?ちょっと長くなったかな!?」彼女は僕の背が大きいからと少し大きく作ってしまった様だ。


 巻いてみる。やっぱり一巻位大きい様だ。と言うことは……。


「ゆーずさんっ」僕は、イタズラっぽく笑うと、優しく彼女の首にマフラーを巻く。


「えっ?あっ?その……」彼女は狼狽えるけど、その後一言少し嬉しそうに、

「温かくて良かったー!!」「でしょ?ありがとう柚子さん」「もしかして、これ作ってて少し寝不足気味?」「ちょっとだけだよ?でも、気に入ってくれたみたいで良かった」僕の満面の笑みが答えの代わりだったらしい。


 一つのマフラーを二人で巻いて……。身長差があるから少しだけ歩き辛いけど、本当に温かくて……。


「少しだけ、付き合って欲しいんだけど……駄目かな?」


「お家まで送ってくれる?」「モチロン!!」素敵な笑顔が答えだった。


「こっちこっち!!」手を引っ張りながら、少し急かす様に少し小走りで……。白い息を弾ませて、来たのはコインロッカー。


 前まで行くと、僕は小さなポチ袋を柚子さんに渡す。


「これ……開けて?」「この袋?」ハァハァと白い息を切らし、袋を開けると中にはコインロッカーの鍵。番号は……「777だぁ~」少し嬉しそうにロッカーナンバーを探す。用意するの大変だったんだ。


「開けて良い?」やっとロッカー番号を見つけて嬉しそうにロッカーを開ける。


 中には少し大きめのラッピングられた包装紙。


「大きいね……あれ?これ意外に軽い?」

 その言葉に思わずニンマリ笑うと、

「これ、椅子なんだ……今度、星を見る時に寝ながら見る事が出来る椅子」


 こんな感じと、僕が座った画像を見せると、

「すご~い、これハンモックチェアーって言うんでしょう?」


「うん……折りたたみ式のハンモックチェア。大きさの割に軽いし寝心地も最高だったから」それと……。


「すご~い、太陽君のは?」


「勿論あるよ、同じ奴」実は、もう一つ買おうとしたら値引きしてくれたんだ。


「座り心地は保証するよ」


「凄いな、エヘヘお揃いだ」照れる柚子さんを見て照れる僕。


「ありがとう!!流星群楽しみになって来た!!」プレゼントを持って、はしゃぐ柚子さん。


「えっとね、メリー……」


「あっ、待って!!太陽君、一緒に言おう!?」


 満面の笑顔の君と僕は街のクリスマスソングが聞こえる寒空の下、


「行くよ?」「うん」「せーの」


「「メリークリスマス!!」」


 きっと世界中が幸せに溢れて欲しい日でも、つらい思いをしている人はいるかも知れない。単なる一日と変わらないと思っている人もいるかも知れない。


 でも、僕らは思った。今日位、せめて今日位は、皆が笑顔でいられます様に。


 大切な人と一緒にいられます様に。


 素敵な笑顔の柚子さんを見ながらそう思った。









































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