好きまでの距離2 Side 太陽&柚子

 Side 赤松太陽



「やっぱりクリスマスだから混むのかな?」


「そう、かもね?」


 バスを降りてから三十分。少し早く出た事もあって、水族館の開館時間とほぼ同時、そのせいもあって人は多い様だ。


「気をつけないと、はぐれちゃうかもね?」柚子さんが少し不安そうにつぶやく。


「多分、大丈夫だよ」


「そうかな?こんなに人が多いのに?」


「うんだって……ほら、手をつないでいるし」


 そう今、僕らは手をつないで歩いているんだ。


「うん……」恥ずかしそうにうつ向いている柚子さん。


 お互いに恥ずかしいのは分かっているけど、何となく離す事が出来ない。


 一度は放そうとしたんだ。


 でも、放そうとした瞬間、柚子さんがギュッと握りしめて来て。


 離せなくなって……。


 今度は、柚子さんが手を放そうとした時に、何となく今離したら、次は手をつなぐ事が出来るのだろうか?と考えてしまい、咄嗟に握りしめてしまった。


「良いのかな?」


 何に対して言っているのか分からないけど、多分手をつなぐ事だよね?


「良いと思うよ?」


 理由なんて特に何でも良かった。


 僕らが手をつなぐ理由。


「こっ混んで来たしさ?」


 僕が何となく言った一言。


「混んできたしね!?」


 しょうがない、しょうがないよね?って、何がしょうがないのか分からなかったけど、良いんだそれで……だって、こうしていたかったから。


 正直、もっと会話の勉強しておけば良かった。


 柚子さんを飽きさせないで、笑わせて、ずっと僕の方だけを見てもらいたい。


 冷たい風も気にならない位。周りの喧騒も気にならない位。僕は今、君さえいればどうでも良い。


 いったい、いつからこうなったのだろう?




 Side 白波柚子




 クリスマスソングが流れる中、開館のアナウンスが流れる。


 バスから降りてしばらくたって、周りは沢山の人達。


 しきりに太陽君はわたしの事を気にしてくれて……何で彼は、こんなに優しいんだろう。


 私は男子が苦手で、それはモジャモジャだった髪やニキビが酷かった頬をからかわれる事が多くて、それが凄く嫌で、『男子嫌い』とか『何で私ばっかり』とか『もっと私がキレイなら』とか思って……。


 多分、あの頃の私は男子だけじゃなくて、自分の事も大嫌いだった。


 私の変わるキッカケになった人、太陽君。


 今、私は彼と手をつないでいる。


 転びかけた私を助けてくれて、立つのを手助けする為に差し出した手を彼は受け入れてくれた。


 そのまま、私達は手をつないだままでいる。


 一度、離そうとした彼の手を私は強く掴んでしまった。だって一度離したら、またつなげる気がしなかったから。彼はビックリした顔をしていたけど、何も言わないでそのまま、つないでいてくれた。


 入場待ちをしている間も一生懸命、色々話そうと頑張ってくれている太陽君が嬉しくて、楽しくて、なんで私なんかの為にこんなに必死になってくれるんだろう。彼は、あまり人と話すのが苦手だって言っていた。でも、私とは気楽に話せるって言ってくれた時は嬉しかった。


 今でも、私は思い出せる。


 二人きりの図書室で、彼は言ってくれた。モジャモジャニキビで可愛く無いって言った私に、


「白波さんが、そう思っても僕は白波さんは、可愛いしキレイだと思うよ。まぁ、僕なんかに言われても嬉しく無いと思うけど」


 恥ずかしそうで目を合わせてくれなかったけど、私は初めてキレイって言われた事が嬉しくて、その時から、変わりたいって思ったんだ。


 きっと、その時から私は……。


「チケット見せて下さーい、はい、ありがとうございます」


 私達の入る番だ。


 取り出したチケットを渡すと、一足先に入っていた太陽君が、少し恥ずかしそうに手を差し伸べてくれて待っていてくれた……。


 私は嬉しくなって、そっとその手を取った。






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