フクオカあるいはユートピア

おりはらひなた

第1話

 私は福岡出身ではないけれど、福岡の街を愛している。愛している、といったら、過剰な表現にもきこえるが、本当にすてきな街だと思う。

 そう思う理由のひとつに、とてもハイセンスな名前をした通りの存在がある。

 その名も、「きらめき通り」である。

 天神にあるそれは、ソラリアプラザや岩田屋、VIOROというデパート・ビルに囲まれていて、福岡県民の人には言わずと知れた通りであろう。しかし私にとっては、高尚で特別な通りのように思える。なんせ、きらめき通りだなんて、あまりに的を得た名前ではないか。いったい、誰が考えついたのだろう。 

 たしかに通りには、岩田屋のショーウィンドウがあったり、宝石店があったり、スターバックスがあったりする。それに、道ゆく多くの人が、きれいにめかし込んでいて、ハイブランドのショッパーを持った人も多い。

 夕方になると、岩田屋の本館と新館をつなぐ、ガラス張りの連絡橋に、オレンジ色の空が反射する。そして私は、それを目にするたびに、喉の奥がきゅっとする。

 本当に、きらめいている。

 いつだったか標識に、Kirameki Streetと、英語でかかれていて、私は言葉をうしなった。きらめき通り、という日本語自体がすばらしいのに、きらめきストリートと英語になってもかわいらしいなんて。

 あの通りを歩くたび、私は今、きらめき通りにいる。と自覚して、胸がおどって仕方がない。なにも買わなくたって、買えなくたって、きらめき通りが、私をきらきらにしてくれる。

 博多駅と、博多バスターミナルも、魅力あふれる場所だと思う。

 博多駅に行ったことのある人は、この世にどれほどいるのだろうか。もし、叶うことならば、すべての人に訪れてほしい。それくらいあそこは、きれいで賢く、洗練されてあたたかい。

 なによりも、西口のグレーの凝った外観と、辺りに植えられた緑の木々とが、近未来的な調和、という感じでわくわくする。むろん、西口だけではなく、反対側にある筑紫口だって、負けてはいないのだけれど。

 筑紫口側には、新幹線の乗り場があって、そのあたりは、西口とは打って変わった雰囲気がある。私の気のせいかどうかは置いておき、どういうわけか、筑紫口は大人っぽい。

 いつも、人が多いにも関わらず、西口より落ち着いていて、歩く度なつかしい気持ちにもなる。(なつかしさの正体は、乗り場近くにある、いわずと知れたミスターなドーナツ屋のおかげかもしれない。)

 きっと私は、西口と筑紫口の間を行ったりきたりするだけでも、充分満足できると思う。

 とはいえこの私が、駅だけで気が済むかというとそうでもない。先にも言ったように、私たちは、博多バスターミナルのことも忘れてはいけない。

 バスターミナルは、博多駅の西口側、すぐとなりに建っていて、駅よりはこじんまりとしている。(そのサイズ感を、私は気にいっている。)

 外壁は、グレーとクリームの中間のような色をしていて、100円ショップやうどん屋さんや、馴染みのファストフード店なども入っている。それこそ幼いころは、家族で福岡に訪れた際、博多バスターミナルをよく利用した。 

 かつて私は、なにかと最前列の席に座るのがこだわりだったので、乗り場付近での待機にすべてを賭けていた(当時、座席指定のシステムがなかったため、席は早い者勝ちであった)。具体的には、出発時刻の数十分も前、ほかの人がまだベンチで休み座っているときから、待機レーンにならぶようにしていた。案の定、一番乗りに乗車して、最前列に座った経験は数知れないし、今でもすこし、それが誇らしい。そしてなにより、座席に座ったとたん、疲労と達成が足中を巡りめぐるのが、唯一至高の瞬間だった。

 と、言いたいところだけれど、至高はまだまだほかにもある。

 というのも結局、この私がいちばん好きなのは、天神地下街であるような気がするのだ。

 天神地下街には、ありとあらゆるお店が入っていて、たとえば、某キャラクターのショップや薬局、そば屋にパン屋、キャンディの専門店、図書カードや商品券を換金する店までもが揃っている。

 私が入る店は限られているけれど、どの店も必ず親しみがあって、前を通りすぎるだけでも退屈しない。

 それに、地下街の天井は黒色になっていて、両サイドに並ぶ店の灯りとのコントラストがたのしい。モダンな暗さに電飾が目立つ空間というのは、まるで年中、クリスマスのようなのだ。

 くわえて、地下街の全長はかなり(とても)長いので、体力がない私からすれば、ほとんど探検をしているに等しい。そしてそれが、私の子ども心を呼び起こしてくれる。

 やっぱり福岡は、私にとって夢の街だと思う。ふり返り、おもいを馳せるほどに、そう感じる。

 福岡城のある舞鶴公園(まいづる、という響きが綺麗)は、春になると桜が咲きほこるし、太宰府の梅ヶ枝餅は、修学旅行の際にわざわざ買ったくらいにおいしい。

 もつ鍋は、一度しか食べたことがないけれど、これからもっと食べる予定で、かならずちゃんぽん麺を追加してみたい。

 一昨年、海の中道海浜公園に行ったときには、赤やピンクにそまったコスモス畑をみることができた。

 さらにもっと、言いたいことは山ほどにある。ここに書ききれないほどに、そして未だ知らない福岡の魅力が、これから私を待っている。

 べつに私は、福岡の宣伝をしているのではない。ただ純粋にあの街がすきで、せつじつな想いをもっているだけなのである。

 だからこそ、多くの人に問うてみたくもある。

 あなたのお気にいりの街はどこですか、と。

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