第150話 違和感だらけの婚約

 多忙なダーレン様が仕事へ戻られる前に、俺はどうしてもリリアンさんの件について確認を取っておきたかった。


「ダーレン様、少しよろしいでしょうか」

「何かね?」

「リリアンさんの件ですが……」


 俺がリリアンさんの名前を出した途端、ダーレン様の顔つきが険しいものへと変わる。勘のいい方だから、俺が言おうとしている内容についても見当がついているのだろうな。


 そもそもあの婚約の話自体が不自然だと俺は考えていた。


 由緒正しい魔法使い一族であるグラバーソン家が、魔法使いとしての才がなかったとはいえ長女であるリリアンさんを騎士と結婚させる……どうにもつながらないのだ。


 或いはその裏に何か別の意図が隠れているのか。

 正直、ダーレン様は適当に誤魔化すかもしれないと予想していたが、ここで思わぬ援軍が現れる。


「ダーレンさん、わたくしもリリアンの結婚についてぜひ詳しい事情を教えていただきたいですわ」

「ア、アリッサ様……」


 さすがに公爵家令嬢が「知りたい」と口にしたら無下には扱えないか。俺との対応に差があるのは仕方がないと割り切っているが、だからこそ彼女の援護は嬉しかったし、何よりの効果をもたらす。


「……分かりました」


 観念したのか、ダーレン様は場所を応接室へと移し、そこで話をしてくれるという。


 ――で、開口一番に飛び出したのは意外な言葉だった。


「まずリリアンとウェズリー・ジェンキンスの婚約ですが……これは娘のリリアンが切り出したのだ」

「えっ!?」


 おいおい……まさかの展開だぞ。

 駐在所に相談へ来た時のリリアンさんはそんなこと言っていなかった。むしろ強制的に婚約させられるって話だったはず。


 じゃあ、なぜ彼女は俺たちのもとを訪れたんだ?

 あの時に見せた表情はどう考えても望んで結婚するという感じじゃなかった。


 なのに、ウェズリーとの結婚を切り出したのはリリアンさんから?

 一体何がどうなっているんだ?


「私はあの子が望むのならと結婚を承諾するつもりでいたが、ここへ来てどうもそうではないんじゃないかと思えてきてね」


 父親らしい顔つきで語るダーレン様。

 口にはしないが、本音としては彼自身もどうしていいか迷っているようだ。


 ……しかし、こうなると今度はウェズリーの実家――ジェンキンス家が怪しくなってきた。

 あちらの調査も必要になってくるかもな。

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