第98話 出世のために
新たに出現したムカデ型のモンスター。
図体こそデカいが、倒すこと自体はそれほど難しくはない相手だ。
とはいえ、口から吐きだす毒液は騎士の鎧さえ溶かすほど威力があり、また全身の至るところに毒針が存在している。
現場の指揮を執る者として考案する作戦は、まずアミーラの魔法による牽制だった。
これで敵に「遠くからも攻撃される恐れがある」という意識を植えつけ、行動範囲を狭めていく。この辺が定石の戦い方だ。
騎士団に所属しているものであれば、基本中の基本ということでよほど経験の浅い新米でもない限りは同じような戦法を取るだろう――と、思っていたのだが、こうしたセオリーを一切合切無視してラターシャはモンスターへと突っ込んでいった。
「あのバカ! 何考えてんだ!」
「いくらなんでも無茶ですよ!」
ゲイリーもエリナもラターシャの取った理解不能の行動に動揺。
俺も最初は自殺行為だと焦ったが……モンスターに立ち向かっていく彼女の表情を見た瞬間に過去の記憶がよみがえった。
――一時期、俺もあんな顔をしていた。
出世するために後先考えず突っ込んでいく戦い方……一度、俺はあれをやって大怪我をしてしまい、騎士としての道を断たれかけた経験がある。それ以降は何をするにしても無茶は控えるようにしていたのだが、彼女はまだその領域に達していないようだ。
「とにかくラターシャを援護する! ゲイリー! エリナ! フォローを頼む!」
「おう!」
「分かりました、先輩!」
このまま見捨てるわけにはいかない。
俺は聖剣を手にすると、彼女のあとを追うように駆けだす。
「はあああああああああああああっ!」
恐怖心を振り払い、自らの奮い立たせるような雄叫びが鉱山内に響き渡る。仮に、彼女がここでモンスターを単独討伐し、騎士団から表彰をされたとしても、次はさらに過激な独断戦法を取るのは目に見えていた。――それこそ、死ぬまで続けるだろう。
そんな戦い方では何も得られない。
俺は身をもってそのことを知り、反省した。
でも、それはたまたま俺が生き残ったからできたわけで、あの時に運悪く死んでいたらきっとあの世に行ってもずっと後悔していただろう。
ラターシャにもそうなってほしくはない。
その一心で彼女を追いかけたのだが、
「シャアアアアアアアアアアアッ!」
ムカデ型モンスターがラターシャの存在に気づいた。
さっきの彼女の叫び声とは比にならないほどの声量――これにより、急激に闘争心が失われていき、目を背けてきた恐怖という現実がラターシャの視界いっぱいに広がった。
「あっ……」
足が止まる。
だが、それでは標的になるだけだ。
「ラターシャ!」
必死に駆けながら、彼女を助けるために手を伸ばす。
頼む――届いてくれ!
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