第95話 怪しい後輩
新しい魔鉱石の採掘現場の視察を行うため、ドイル様とアリッサ様を連れて再びゴーテル鉱山へと戻ってきた。
「こ、ここが鉱山……」
「お、思っていたよりも怖い雰囲気ですわね……」
坑道に入る前から気配に怯え始めているふたり。到着してすぐにアミーラを呼び、周辺を入念に調べてもらったが、モンスターの存在は確認できなかったという。まあ、だからといって絶対に安心かといえば断言はできない。ジュエル・リザードみたいなケースもあるので、反応はなくても警戒は怠らずいこう。
……あと、俺にはもうひとつ気になっていることが。
「へぇ、ここが新しい魔鉱石の採掘現場なのねぇ」
アリッサ様の専属護衛としてついてきた後輩のラターシャだ。
彼女は俺にとって初めてできた後輩であり、マクリード家の護衛騎士として派遣されるようになってからは顔を合わせていなかった。それがまさかこんな場面で再会するなんてなぁ。
ラターシャは魔鉱山をひと通り眺めた後、大きくため息を漏らした。
「どうかしたか?」
「いえ、その……私の憧れでもあったジャスティン先輩が、聖騎士という称号を持ちながらこのような場所で燻っているなんて……」
「あぁ……」
彼女の言いたいことは分かる。ラターシャが同じ隊にいた頃の俺はとにかく出世したいという野心の塊みたいな人間であった。
しかし、このアボット地方で暮らすようになってからは価値観が大きく変化したと実感している。金とか地位とか名声とか、そんなものはどうでもよくなってしまった。王国議会でハンクの騎士団追放が決定し、再び王都へ戻って来ないかと誘いを受けたが、結局断ってしまったからな。
ただ、あれに関しては間違った判断ではないと今も確信している。
俺は今の暮らしが大好きだ――が、昔のギラついていた頃と比較されたら腑抜けになったと言われても仕方がない。口にしていないだけで、ラターシャも今の俺を見て内心はそう思っているのかもな。
『何年も公爵家に仕えているのですよ? むしろ磨きがかかって先輩を超えちゃっているかもしれません』
あの言葉は今の俺に対する気持ちの表れだったのかもしれない――というのは勘繰りすぎかな。
しかし……前に会った時よりなんだか雰囲気が変わったような……?
「先ぱーい、どうしたんですかー?」
エリナの声でハッと我に返る。
とりあえず、今は目の前の仕事に集中するとしよう。
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