第80話 朝霧の向こう側

 アミーラが朝霧の向こう側に感じた不思議な魔力。

 カーティス村の外れにある湖に住み着いたドラゴンのアスレティカも、廃鉱山の方に不思議な魔力を感じたと言っていたが……これはもしかしてもしかするかもしれないな。


 まだ採掘されていない魔鉱石が発見されたとなったら大ニュースだ。

 それこそ、アボット地方の経済状況を一変しかねない。

 騎士団もアミーラの言葉を耳にして俄然ヤル気が出てきたらしく、すぐに準備を整えて鉱山近くの廃村を目指した。


 道中はモンスターの襲撃などを予想して厳戒態勢を敷いていたが、結局何も襲ってくることはなく目的地のすぐ近くまでやってくる。


「ここまで平和だとそれはそれでちょっと怖いな」


 馬車に乗りながらそう呟いたのはゲイリーだった。

 きっと、騎士として多くの戦場を駆け抜けてきたからこそ培われた、騎士特有の勘というヤツだろう。俺もたまにそんな感覚になるからな。


「用心しすぎていけないということはないんだ。慎重にいこう」

「そうだな」


 緊張感を保ちつつ、目的地に到着するとすぐに場所をおりて辺りをチェック。モンスターやこの廃村に住み着いている不審者の姿は確認できない。


「とりあえず、目に見える脅威ってヤツはなさそうだな」

「それが分かっただけでも大きな収穫だよ」


 ここを根城にして悪巧みをしているようなヤツがいたなら、聖騎士の名にかけて成敗し、監獄送りにしてやるところだったが、その心配はいらなかったみたいだな。


「それにしても……こんなことを言うもんじゃないが、長らく人が住んでいなかっただけあって形容しがたい不気味さがあるよなぁ、この村は」


 ゲイリーは「ふぅ」と息を吐きながら言う。

 実は俺もまったく同じことを思っていた。

 まあ、それは彼自身が口にしたように、長い間まったく人の手が加えられていないというのが主な原因だろうな。


「わあ……」

「大丈夫ですか、アミーラさん」

「は、はいぃ」


 エリナの足にしがみつき、声を震わせていたのは今回の主役でもある魔法使いのアミーラであった。成人男性である俺やゲイリーが不気味さに若干引き気味なのだから、まだ幼い子どもであるアミーラが怖がるのも無理はない。

しかし、こんな状態で魔鉱石を探しだせるのか?

なんだかちょっと不安になってきたぞ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る