第48話 やれるだけのすべてを

 舞踏会が開催される理由を知ってからも、ドイル様は熱心に本番へ向けて努力を重ねた。

 ダンスに関しては足の怪我の悪化を防ぐため全面禁止。一応、幼い頃から教養の一環として基礎的な部分はマスターしているとのことだったので、なんとか誤魔化せるはずだと本人は笑っていた。


 そのため、当日に向けた一番の取り組みとして怪我の完治が最優先事項として組み込まれることになる。

 専門の治癒魔法師でもいれば話は早いのだろうが、この国には数えるほどしかいないし、その数人もすべてが王都の魔法兵団所属となっている。

 あと可能性があるのは薬草くらいか。

俺は屋敷の使用人たちと協力をして広いグラッセラを駆け回り、痛み止めの薬草を買い集めようと試みる――が、この手の薬草は騎士団だけでなく冒険者稼業の者たちも常に求めているので非常に数が少なく、また入手も難しいという。


「まいったなぁ……」


 朝の農作業を終えた俺はふらりと村はずれにある湖へとやってきていた。

 気分転換でもして頭をスッキリさせようと思ったのだが……ダメだ。時間があると、どうしてもこれからのことを考えてしまう。


 ため息交じりに湖を眺めていると、突然水面が持ち上がった。


「おっと、起こしちゃったかな?」


 異常事態にもかかわらず、俺は冷静に湖を眺め続ける。

 なぜなら、その正体については既に発覚しているし、何よりとてもいいヤツだって分かっているからだ。


「元気がないようじゃな、ジャスティン」

「辛気臭い空気にして申し訳ないな」

「それは別に構わんが……何かあったのか?」


 湖から姿を現したのは、ここに住み着いているドラゴンのアスレティカだ。

 体長は軽く十メートルを越える巨体だが、とても賢くて人間との会話が可能。おまけに温厚な性格で今やすっかり人気者となっている。特に子どもたちからのウケは抜群だ。


 とはいえ、人間社会の事情を説明しても理解ができないだろう。過去にそういった接点もないと言っていたし……それでも、もしかしたらという淡い期待にすがってこれまでの経緯を話してみた。


「なるほど――分からんな、人間の社会とやらは」


 案の定、アスレティカはため息交じりにそう言い放つ。


「ははは、だよな。俺もたまによく分からなくなってくるよ」

「ふむ……確かに理解はできぬが、つまりドイルの怪我が完治すればよいのじゃろう?」

「まあ、それで万事解決するというわけじゃないけど、今より事態は好転するかな」

「ならば、この湖の水を持っていくといい」

「えっ?」


 思いもよらぬアスレティカからの提案であった。

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