第38話【幕間】その後のミラッカ

 カーティス村をあとにしたミラッカは、デラスという港町に来ていた。

 ここでハンクの実家周辺を調べているゲイリーと落ち合う予定になっている。


 ミラッカは指定された食堂へと入るとすでにゲイリーが食事をしながら待っており、手招きをして彼女を呼び寄せた。


「おぉい、こっちだ」

「呑気ねぇ。情報は得られたの?」

「それがサッパリだ。むしろ、この辺りじゃデラント家について語ることをタブー視している節がある」


 声を潜めて語るゲイリー。

 ある意味、これは調査した結果のひとつという見方もできる。


「箝口令でも敷かれているのかしら」

「似たようなモンだろうな。無言の圧力ってヤツだよ」

「そうなの?」

「おまえだってしっているだろう? デラント家は代々エリートの家系で、騎士団の幹部を長く続けてきた。その影響力はこの地を治める貴族よりも強いとさえ噂され、影の領主とまで言われるほどだし――現に、こんなことだってできちゃうんだぜ?」


 話の途中で、ゲイリーはあるメモをテーブルの上に置く。

 それに目を通したミラッカはあまりの内容に一瞬では理解できなかった。


「これ……本当なの?」

「かなり現実味のある話らしいぞ」


 メモの内容は、ベローズ副騎士団長の使いとしてゲイリーに接触してきた騎士から伝えられたものだった。

 それによると、騎士団は近いうちにゲイリーとミラッカのふたりを東の果ての国境警備につかせようと計画しているらしい。

 ジャスティンの左遷に疑問を抱き、独自に動き始めたふたりが王都を遠く離れて国境警備にあたる――それはあまりにもタイミングが良すぎる異動だった。


「俺たちが嗅ぎ回っているとバレたみたいだな」

「随分と露骨な手を使うわね。でも、これだとベローズ副騎士団長も危ないんじゃない?」

「あの方はそう簡単にどうこうできる地位じゃないよ。奥さんも名家の出身だしな」

「……それもそうね」


 ゲイリーとミラッカはともに両親は平民。

 名家の出身であるハンクとは後ろ盾の厚さが違う。まだ最終決定というわけではないが、今回の異動については完全にその差が出た結果となった。


 もちろん、このような行いが許されるはずがない。

 だが、自分たちの異動とジャスティンの無実を晴らすための行為との関係性がハッキリしない以上は何も言い返せなかった。


「次の王国議会までには何かしらのお達しがあると思うが……悔しいな」

「そうね……」

「俺たちにもバックに公爵家並みの強力な影響力を持つ貴族がついてくれていたら、大手を振って調査ができるっていうのに」

「難しいわね。そもそもそんなコネクションもないし、せめてアボット地方の領主が先代の頃なら、話も通しやすかったでしょうけど」

「だよなぁ。今の若い領主はまだまだ経験不足が否めないから、こういう厄介事に首を突っ込むとは思えんし」


 ふたりは大きくため息をつきながらメモを見つめる。

 ジャスティンの無実を晴らすための調査は、ここへ来て暗礁へ乗り上げる格好となってしまった。




※本日も18時と21時に更新予定!

 明日からは1日2話となる予定です。

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