第12話 夜間警備

 魔狼を警戒し、今日は夜間警備を実施することになった。

 とはいえ、森の周辺を調査した結果、魔狼の群れの存在を確認できず、襲ってきたあの個体は何らかの理由で群れを追いだされたのではないかという結論にたどり着く。


 ただ、それでも放置しておくのは少し不気味だ。

 何より村の人たちが安心して眠れないだろう。


 それに、今日からの行動は俺ひとりだけではない。頼もしいパートナーが新たに加わっているのだ。


「何かあったらすぐに教えてくれてよ、リンデル」

「わん!」

 

 珍しい赤い毛の犬ことリンデルだ。

 サントスさんの言うように、彼はとても賢い。もしかしたらどこかで特別な訓練を受けた経験があるのかもしれない。


 農作業を終えて村人たちがそれぞれの家に戻り、夕食を終えた頃にはすっかり辺りは暗くなっていた。


「そろそろ見回りを始めるか」


 王都ならば、ここからが夜の町の楽しみどころって時間帯だが、田舎町では娯楽施設もないのでほとんどの家庭が眠りにつき、静かになる。朝が早いのでそれも仕方がない――と、思っていたら、


「おぉ! 騎士殿!」

「お疲れ様だねぇ!」

「腹減ってないか?」


 なぜかガナン村長を先頭に、村の男性たちが集まってきた。


「み、みなさん、危ないので家の方へ――」

「けどよぉ、森には他にモンスターなんていなかったんだろう?」

「ま、まあ……今回の夜間警備は念のためのものになります」

「だったら俺たちも手伝うよ」

「て、手伝う?」

「その方が効率がいいだろう?」


 確かにそうかもしれないけど……守ろうとしている村人を危険な目に遭わせてしまう可能性が高まるので、本末転倒って気がしないでもない。

 だが、すでに村の男性たちはヤル気満々のようだ。各々が武器を手に持ち、「モンスターが襲ってきてもぶっ飛ばしてやるぜ!」と意気込みを語り合っていた。なんか騎士団より好戦的な気がする。


「俺たちの村で好き勝手やるようなヤツがいたら追い払わないとな」

「そうだ。好きにさせるかよ」

「蹴散らしてやろうぜ!」

「みなさん……」

 

 集まった人たちの誰もが村をとても大切に思っていた。だから、自分の身に危険が迫るかもしれないという状況でも俺に協力を申し出てくれたのだ。


「ありがとうござ――」


 お礼を言いかけた直後、俺は強烈な気配を夜の闇の向こう側から感じ取って振り返った。


「どうしたよ?」


 こちらの行動が異様に映ったようで、集まった村の男性のひとりが心配そうに尋ねてきた。


「……かなり強い気配を感じます」

「つ、強いって?」

「間違いなく……昼間に俺が倒した魔狼よりずっと強い存在が近づいてきています」

「「「「「えぇっ!?」」」」」


 集まったガナン率いる十人以上の男性たちは一斉に驚き、パニックへ陥った。

 ……俺としても完全に予想外だ。

 まさかこれほど強力なモンスターが潜んでいたなんて。

 数は一体だけのようだが、果たして倒しきれるかどうか。

 緊張感に包まれる中、そいつは少しずつ接近し――とうとう俺たちの前に姿を現す。


 すると、


「先輩! ジャスティン先輩!」


 嬉しそうに俺の名を呼んだのは、


「エ、エリナ!?」


 このアボット地方にいるはずのない後輩騎士エリナであった。

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