一話

「――このようにして、東京は科学と魔法の最先端が結集した世界一の都市となりました。東京を中心として茨城県から兵庫県までを貫く都市群を学術的アカデミック大都市圏メトロポリスと呼び、世界中から最新の技術を学ぶべく、日夜、外国人が飛行機に乗って日本を訪れています。その飛行機もまた、最新鋭の魔子エンジンの賜物であり――」

 テレビがうるさいな。どうやら消さずに寝てしまったらしい。

 手だけ動かしテレビのリモコンを探し当て、ボタンを見ずに消す。起き上がるのが面倒だ。ソファの寝心地に負けてもうひと眠りでもしようか。

 いや、ソファの寝心地なんていいものではないのだけど。でも各地を転々とする生活を送っているとどうもベッドというものが不必要に思えてきて、最近はもう部屋に置くことすら辞めてしまった。

 お陰で体は毎日バキバキなのだけれど、それすらも慣れてしまう。人間の適応力というのは恐ろしいものだ。

 目を開けて、周りが暗いことを知る。どうやらもう夜らしい。壁にかけてある時計を目を凝らしてじっと見て、今が夜の十一時であることを知った。

 ――大体五時間くらい寝たか。それならまぁ十分だな。

 やっとのことで体をソファから起こし、軽く伸びをする。大きな窓から入ってくる明りが部屋を仄暗く照らして、俺はそれを見る度に嬉しく思うのだった。

 光が入ってきているベランダへ向かい、窓を開ける。そこには、海抜四百メートルから見下ろす、大都会東京の二十三時がある。

 ジャングルのようにひしめき合う高層ビル群。何階層にも分かれた高速道路。摩擦の無い自動車のモーター音。イルミネーションのような灯り。深海のような風景。その中でもひときわ目立つ、大きな環状線の線路。

 あれは魔子エンジンを用いたリニアモーターカーが走る道路で、大都市には大抵1つ、その都市を囲む様に敷かれている。敷かれていると言っても地面にではなく大抵は地上から五十メートルほどの場所に、新幹線や高速道路と同じように土台を作っているのだけれど。

 冷たく重い東京の風が強く吹き付け、カーテンを揺らす。月光ほどの、外からの明りに照らされて、透明のレースが浮かび上がった。

 世界一の大都市、魔法と科学を両立させたメトロポリス、東京。俺はこの街が大好きだ。

「……さぁ、仕事の続きをやるか」

 ベランダの窓を閉めて部屋の電気を点ける。

 俺はこの街で、魔法使いと呼ばれる仕事を行っていた。

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