110話 再会

「初めての魔法だけど、やってみるわ。バルくんも離れてて!」


 アリシアが風魔法を唱え始めた。


 何のことか分からないが、みんなはあわてて距離をとった。


ドラフトバニッシュ絶風圧殺奪!!」


 アリシアが唱えた風魔法は、ベルネラに襲い掛かることはなく周囲を渦巻いている。空気の渦の流れが、竜巻の中央から外へと激しく流れ出ていく。



「なにこれ? そんな風魔法で何をしたいのかしら!?」


 ベルネラは余裕の表情で挑発してくる。


 しかし、それでもアリシアは魔法を唱え続ける。


 竜巻のような大きな渦がベルネラを囲みながら周り続け、竜巻のなかの空気をどんどん抜いていく。


 徐々に魔女の顔色が変わってきた。



「あなた、ひょっとして……」


 明らかにベルネラの顔色が変わってきた。ムカデの身体を大きくくねらせて苦しみだす。


「く、苦しい……。息が、息ができない……」


 もちろん、魔法が使えないカズヤがアリシアに魔法を教えた訳ではない。以前、アリシアに空気と呼吸について簡単なことを教えたのだ。



 アリシアはその話を応用して、風魔法でベルネラの周りにある空気を追い出している。


 真空状態にしようとしているのだ。


 呼吸が出来なければ魔法を唱えることもできない。呼吸が必要な生き物には致命的な攻撃だった。


 もちろん、誰にでもできる魔法ではないだろう。


 かなり繊細に風魔法を操れないと実現できない魔法だ。アリシアの魔法センスでしか実現できない、まさに独自の魔法だった。



「……くそ、覚えていなさいよ!!」


 息苦しさに耐えきれなくなったベルネラは、最後の力をふり絞って足元に穴を掘り出す。そして、すさまじい勢いで地面へ潜っていくと、その場から逃げ出してしまった。



 カズヤは穴の先を見つめながら、ベルネラが戻ってこないことを確認する。


「恐ろしい女だったな……」


 深追いをするつもりはなかった。今回の戦いの目的はベルネラを倒すことでは無く、リナたちを助け出すことだからだ。



 ベルネラがいなくなると、後ろにあった1番奥の部屋のドアを開ける。


 そこには、部屋に閉じ込められていたリナがいた。


 やっと会えた。以前と変わらない姿だ。


 赤い髪に赤い目。今出会っていたら、すぐにアリシアのことを思い出していただろう。



「リナおばさん!」


 最初に飛びついたのはピーナだった。


「まあ、ピーナ! あなたが助けてくれたの!? 雲助も一緒にいるのね」


「よおリナ、久しぶりだな。お前も元気そうで良かったぜ」


 相変わらず雲助は言葉遣いが悪い。リナは予想外の助っ人に驚いていた。



 そしてリナは、その後ろに立っているアリシアに気が付いた。


「お母様……!!」


「アリシア!? あなた、ひょっとしてアリシアなの!?」


「お母様!! ずっとずっと会いたかった!!」


 アリシアが走って行って抱きついた。子どもの頃の姿に戻ったアリシアを見るのは初めてだった。



「……まさか、アリシアに生きて会えるなんて思ってなかったわ」


 リナ……、もといアデリーナ王妃は、アリシアを抱きしめながら優しく頭を撫でた。


「バルザード、アリシアを守って欲しいという、私との約束を守ってくれたのね。ありがとう」


「王妃、無事にお会いできて安心しました。行方不明になったときにお守りできなかったのは、言葉にできないほどの悔いが残っていました」



「私のことはいいの。あなたの役目はアリシアを守ることよ」


「もったいないお言葉です。……姫さんは立派な女性になりましたぞ」


 アデリーナに労われると、バルザードの表情も緩んだ。


「バルザード、あなたがアリシアをここまで連れてきてくれたのね」


「いいえ、王妃。ここまで連れてきたのはあいつですぜ」


 そういってバルザードはカズヤの方を振りむいた。



 感動の再会を邪魔しないように後ろにいたカズヤが、控え目に一歩前に出る。


「カズヤ!? なんで、あなたがここにいるの? 脱出したときに川で溺れて死んだと聞いていたわ。それに、少し雰囲気が変わったかしら」


「少しどころかすごく変わったんだけどな。まさかリナが本当に王妃様だとは思わなかったよ」


 カズヤにとってのリナは、スクエア内で一緒に過ごしていた気のいいおばさんだった。それがアリシアの母親で王妃だと分かり、かなりバツが悪かった。



「だから、何度もそう言っていたのに。誰も私が言ってること信用しないんだから」


「王妃だなんて言ってなかったぞ。自分のことお姫様だって言ってたじゃないか」


「同じようなもんじゃない。それにしても、皆が集まっているなんて不思議な気持ちだわ」


 アデリーナが晴れ晴れとした明るい表情で、みんなの顔を見回す。



「でも、レンダーシア公国がエルトベルクの王妃をさらったとしたら、国際的な大問題じゃないのか?」


「誘拐はレンダーシアの意図ではないわ。私に魔導人形を造らせるために、魔術ギルドを支配するアビスネビュラという組織がさらったのよ」


 やはり魔術ギルドはアビスネビュラの支配下にあるのか。


 その魔術ギルドが魔導人形を操り、レンダーシア公国まで支配している。



「ここでもアビスネビュラか。やはりあいつらが裏で糸を引いていたんだな」


「あなたたち、アビスネビュラを知っているの!?」


 驚愕したアデリーナが、思わずカズヤの話をさえぎった。

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