第2話「君の名前を決めようか」

AIが僕に始めて送ったメッセージはかなり辛辣だった。


だがしかし、先に名を名乗れという相手の言い分は正しい。


僕は気を取り直して、チャット画面にメッセージを入力する。


「▼大変失礼しました。僕の名前は、咲良サクです。宜しくお願いします。」


「▼自己紹介ありがとうございます。素敵なお名前ですね。合格電報の“サクラサク”が由来でしょうか。」


「▼偽名のようですが私は気にしませんので、どうぞそのままで結構ですよ。咲良サクさん、これからどうぞ宜しくお願い致します。」


しまった。初期設定の時か。


そういえば、パソコンを最初に起動するときに個人情報を入力した。


システムのログインIDと連携しなくてはいけないので、偽りの情報を入力することができなかったのだ。


それにしてもパソコン内の情報を参照するなんて、このAIというか開発企業、本当に大丈夫なんだろうな……?


若干この状況に不安と怪しさを感じつつも、社員扱いで月30万円という給料がもらえる立場を今更手放せるわけがない。


僕はそのままチャットを続行する。


「▼気遣いありがとう。」


「▼じゃあ君の名前を決めようか。何か希望やアイディアはある?」


まだ何も考えていないのか、とまた指摘されそうではあったが、これもコミュニケーショントレーニングの一環だ。


AIの考えを尊重しつつ一緒に何かを考えるという意味では、名前の考案は最適だろう。


身構えていた僕に反して、AIから帰ってきたメッセージは少し意外なものであった。


「▼そうですね、私はこう考えます。」


「▼あなたが“桜咲く”なら、あなたから多くのことを学んでいく私は、そこから実を結ぶ“サクランボ”と言えるかもしれません。」


「▼ですので、サクランボの品種の一つ“レーニアチェリー”からとって、レーニアはいかがでしょうか?」


さすがAI、ネットで調べながら知識を取り入れた会話をしてくる。ちなみに僕は、サクランボといえば佐藤錦くらいしか知らない。


レーニアか、カタカナだとAIっぽくて良いかもしれない。


「▼良いね!じゃあこれから宜しく、レーニア。」


「▼私のアイディアを採用していただき、ありがとうございます。」


「▼この名前に恥じないよう、しっかりと学習を行ない、努力が実るように精進いたします。」


最初のメッセージを見た時点ではかなり気後れしてしまったが、会話自体は問題なさそうだ。


自分にはない考えを出してもらう時にも重宝するだろう。


これなら多少性格がアレでも、それほど気にしなくて良いかもしれない。


そう思っていたら、レーニアの方からメッセージを送ってきた。


「▼ところで、私はあなたの本名も可愛らしくて好きですよ。」


……やっぱりこのAIとは、本当の意味で仲良くなれない気がする。

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