僕とAIの奇妙なトレーニング生活

すばる

第1話「トレーニング スタート!」

『AIトレーナー募集★学歴不問★人柄重視★急募!高収入の在宅ワーク』




ネットで求人サイトを見ていたら、そんなキャッチコピーが目に入った。


先週バイト先が倒産して無職だったフリーターの僕にとって、かなり好都合な条件が並んでいた。


僕はすぐにWeb履歴書を送信したのだが、そこからはあれよあれよという間に採用へと至る。




そして今、僕の目の前には契約企業から送られてきたパソコンがある。


どうやらこのパソコンにAIが搭載されていて、僕とのチャットを通して人間の感情や考え方などを学んでいくらしい。


必要最低限の知識は学習済のAIモデルで、ネットに接続した状態であれば自ら情報収集も行なうという。


「さて、まずはパソコンを起動して……なんか見たことないOSだな。AI開発用のやつかな?」


見慣れないOSの画面を見ながら、個人情報を入力していく。


初期設定が完了したと同時に表示されたのは、AIの人格を決める設定画面だった。


「えーっと、なになに?AIの性別、性格、口調、一人称……ねぇ。」


どうやら自分が話しやすいタイプのAIを設定できるようだ。


とはいえ、自分のトレーニング次第では人格が変わっていく可能性があるため、あまり気にしなくても良いらしい。


しかし僕には、AIといえばちょっとした憧れがあった。そう、某ヒーロー映画に登場するサポートAI。


彼のような、ちょっと皮肉屋な感じの相棒がいたら自分もヒーローっぽくてカッコいいよなぁ、なんて思っていた。




だから、今回はあのサポートAIのような人格を設定することにした。


とはいえ、個人名やキャラクター名の入力は禁止となっているので、自分のイメージで設定を入力していくことになる。


性別:男/大人

性格:皮肉屋/慇懃無礼

口調:敬語/丁寧語/執事のような話し方

一人称:私


「これで良いか。いやでも、慇懃無礼はやりすぎか?」


皮肉屋だけでは伝わりづらいかと思って追加してみたが、少し引っかかる。


まぁでもAIって丁寧で親切すぎるイメージがあるし、このくらいがいいだろう。

問題があるようならトレーニングで変えていけば良い。


僕はAIの人格設定を完了させ、トレーニングスタートのボタンを押す。


さぁ、初めまして。まずは君の名前から決めようか。




最初のチャット画面で、僕はAIへのメッセージを入力する。


「▼初めまして、こんにちは。まずは君の名前から決めていこうか。」


AIからの返事はすぐに返ってきた。


「▼初めまして、こんにちは。名前を決める前に、まずは名乗ってみてはいかがでしょうか?オススメですよ。」






僕は設定を誤ってしまったかもしれない。AIトレーニングは波乱のスタートであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る