第7話
「到着いたしました」
「……結構かかるわね」
「関東県の方の多くはお車でこられますのでそのせいかと……」
「あらそうなの? 次に来るときは電車にしましょう」
「駅が徒歩五分圏内に御座いますので、それが宜しいかと……」
車を止めドアを開けた運転手は、母の雑談に付き合う。
眼前には立派なホテルがあった。
「おっきい~」
「地上16階もあるホテルですから大きいですよ? 都心まで約20分と観光地へのアクセスも良く、東京湾を一望できる景色をお楽しみいただけるかと……」
運転手さんは俺のような子供にも丁寧な言葉遣いで説明してくれる。
優しい。
しかしまあ、一体幾ら掛かっているイベントなのだろう?
「アレ! アレみたい!!」
「あれ?」
父は呆けたような声を上げる。
「多分ロボットの巨大立像のことです」
「……よし、じゃあ明日にでも行くか」
「うん!」
「では私は車を置いて参ります」
「任せる」
ロータリーに停まったままの車にサッと乗り込むと、遅滞なく離れていった。流石国産のハイブリッド車、エンジン音が小さい。
ドアマンがドアを開けロビーに入る。
床にはフカフカの敷物が敷き詰められ慣れないと足が疲れそうだ。
「
「うん大丈夫!」
「車の中で修行を始めるものだから不安だったけど……気分が悪くなったら直ぐに言うのよ?」
「はーい」
ロビーには達筆な筆文字で「倉橋家主催 降魔懇親会」と書かれた紙が飾られている。
「
「くらはし?」
「
今日一日の父母の話を整理すると、今回『懇親会』を主宰する
つまり、同業他社で作られた組合のお偉方が開く懇親会と言うことだ。
そして面倒なことに二大
それと
今日は久々の娑婆に出てはしゃぐつもりだったが予定変更だ。
恐らく懇親会の主役でもある彼ら彼女らは、物語を担う重要人物。
悪役としてはどうにかしてお近づきになりたいところだ。
社会人として生きていく上でコネは、あって損することはない。
コネがあれば金も、より良い人脈も得やすくなる。
これは朧気ながら記憶している人生哲学だ。
「……つまりすごい、いえって……ってコト!?」
「……まあそういうことだ。術の系統が違えど名家同士だ。無礼な真似はするなよ?」
「もちろん」
両親は安心したような表情を浮かべた。
「ならば安心だな」
父はグシャグシャと乱暴に頭を撫でる。
「髪が崩れちゃう!」と悲鳴のような声を上げ母は髪を整える。
父はバツが悪そうな表情を浮かべた。
エレベーターに乗って会場のあるフロアまで昇る。
映画なんかと違ってパーティーなどの主要ホールは、五階までに揃っているらしく、犯罪集団のせいで高層階で取り残されると言った様式美は難しそうだ。
そんなことを考えていると、チンと音がなりドアが開いた。
その瞬間周囲の視線が注がれいるのが判る。
ホールのドア付近に立った。警護と思われる複数人の男女が視線を向けているこの異質さに薄気味悪さを覚える。
呪力や霊力を目に集中させて俺の霊力を暴こうとしてくるのだ。
エレベーターホールから数メートルでパーティーの受付に、辿り付けるのに術者達の威圧感は凄まじい。
父もそれに気が付いているのか「何でもない」と言った態度を崩すことは無い。
俺も普段通りに振る舞う事にする。
……が不躾な視線を向けられるのは不快感が強い。
霊力――吉田家の流派では呪力と呼ぶ――を眼球に集める。
父さんに比べると全員低いな……まあそれは当然か……
良家の警護の術者としてはどうなんだ? 呪力はそこまで大くないように感じる。
呪力低っくッ! たったの5か……ゴミめ、いや本当に5か判らんけど……
そんな遊びをしていると、呪力を感知出来ているのに……どこか違和感を感じる。
なにかある場所が空白になっているような……そんな感じだ。
確かめてみよう……
「父さんあそこおかしいよ?」
そう言って指を指した。
「どこだ?」
そう言って父は瞳に呪力を込める。
「何にもいないぞ?」
「そう? じゃあためしてみる」
呪力を込め呪符を打つ。
「
刹那。
長方形のただの紙切れは鳥の姿を取って目標に向け飛翔する。
三歳児とは思えない一連の動作を見て周囲の大人の視線が集まる。
「ハッ!」
呪力の篭った人指指と中指だけをピンと立て、まるで剣でも振り下ろすと式神は破壊され呪力の光が周囲に舞う。
それはライトアップされた夜空に舞う粉雪、あるいは月明りに照らされた桜吹雪のような美しい情景だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます