ワイ氏のロボット
hibih
ワイ氏のロボット
天才科学者であり、偉大な発明家であるワイ氏はついに、完璧といえるロボットの開発に成功した。無尽蔵のエネルギーを生み出す動力源を組み込み、状況に応じて学習し、柔軟に適応できる人工知能が搭載されている。力仕事も精密な作業もこなし、あらゆる環境に耐える頑丈な体はわずかなメンテナンスで維持できるようにしてあった。そして人間、特にワイ氏に忠実だ。
「しかも徳も積んであるところが素晴らしい」
ナイフ、栓抜き、缶切り、ハサミ、ノコギリ、爪やすり……他にいくつかが内蔵されている。まことに便利な徳である。
「これで研究に集中できるぞ」
今はまだ台に横たわるだけのロボットだが、しかしワイ氏は満足していた。これからは炊事洗濯、部屋の片付け、食料の買い出しなどはこのロボットにまかせればいい。研究や発明の助手としても活用しよう。これまでできなかったような作業を増やすこともできるはずだ。研究の成果を奪おうと襲ってくる暴漢も追い払ってくれる。
「そうだ、買い物に行ってもらうとなると人に似せた外見も用意しなくちゃいかんな」
ロボットの体は研究室の照明を反射してキラキラと輝いていた。金属骨格が剥き出しのままでは街の人々は恐れるかもしれない。自己修復機能をもたせたバイオスキンで覆って人に似せるか、それともわざとぎこちなく振る舞うなどして愛嬌を持たせるか……とりあえず今回は自分の服を着せて様子を見ることにしよう、とワイ氏は考えた。
「今日は商店街のコロッケが特売日だ。さっそく、行ってもらうことにしよう……ええっと」
ロボットを起動させようとして、ワイ氏は伸ばした手を止めた。
「しまった。スタートスイッチを作るのを忘れていた」
叩いたり、ゆすったり、命令しても目覚めない。
ワイ氏はしばらくの間はそうやってロボットをなんとか起動させようと奮闘していたが、やがてひとつの決断をするにいたったのである。
買い物袋を手に、ワイ氏は研究室をあとにした。
ワイ氏のロボット hibih @hrnwbnk
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます