人生オワタ俺は一度だけ;Re.やり直せるらしい

國灯闇一

詰んだ

01 俺の人生オワタ

 夕暮れに一筋の黒煙が立ち昇っている。中央分離帯にぶつかって止まる車は、前方がつぶれていた。事故を起こした運転手は車を出て、走っていた。


 半べその顔で掠れた呼吸をつきながら必死に走る。十倉唯男とくらただおはトンネルに入る。トンネルの向こうに柵と工事灯が見える。重機やトラックが片側に止められており、果たしてこの先にちゃんとした道があるのかさえわからない。

 逃げることしか考えてなかった唯男は、成り行きで逃げ道を選んでしまった。どこからともなく聞こえてくるサイレンの音が唯男をき立て、開通していない道路に侵入するしかなかった。


 なんでこんな目に遭わなくちゃならないんだと、心の中で愚痴を吐く。何が間違っていたのか、どこから間違えてしまったのか。何もわからない。

 嫌だ、嫌だと、走りながら呟く。

 視界が滲み、鼻水も出てきた。

 もう限界だった。心も体も。

 唯男は足を止め、その場にへたりこんでしまう。

 咳と一緒に何か出てきそうだった。

 止めようのない涙と嗚咽おえつで苦しい。

 体が勝手に震える。

 走り疲れたせいか。それともすべてを失った精神的ショックか。

 わからない。もう、何もわからない……。


「助け……」


 唯男は細い声を漏らし、しゃくり上げて泣く。


「助っ、……助け、くだ、さいっ!!」


 そう吐き出した後、唯男は発狂した。トンネルに男の絶叫が木霊する。

 唯男の意識は少しずつ混濁していった。

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