ティアオブザティア☆異世界の住民になろう
ゼルダのりょーご
第1話 イセカイノサクシャ【VS門番】①
※こんにちは。
異世界の住民になりたい人を募集している世界の入り口に来ました。
私の名は、イセカイノサクシャ、です。
「住民票をもらいにきました」
異世界の住民希望者は異世界物の物語を一本書いてくることが条件です。
つまり原稿の持ち込みが必須となります。
異世界に関してどの程度の知識や思い入れがあるのかをアピールするのが目的。
住民に相応しいかどうか、原稿を読み上げて審査をする担当者がいます。
この担当者は自分の肩書をブロッカーと名乗りました。
スコッパーという人達が創作界隈にはおられますがそれとは違うようです。
いわゆる門番のようです。
それなら私はアタッカーになるのでしょうか。
「早速ですが審査を始めたいと思います」
「よろしくお願いします」
「冒頭から原文のまま、本文を音読で読み進めてください」と。
ティアオブザティア☆異世界の住民になろう
『イセカイノサクシャ』①
【VS・門番】
◇【本文】
ディース。
彼は町の者たちからそう呼ばれていた。
朝早くから何人かの子供たちの元気な声が家の玄関先から響き渡ってきた。
「よし、頑張ってじっちゃんのお許しをもらって来るぞ…」
この声の主がディースだ。
◇
『誰です?』
物語の主人公です。
『親たちからはそう呼ばれてないの?』
ディースに親はいません。
『性別は?』
男の子、少年です。
『生物学上の?』
生物学上の男子です。
『下の名前? 上の名前? どっちなの、日本人で言う所の』
日本人で言う所の下の名前です。
『どこの家の玄関先なの?』
ディースの家です。
『なぜ朝っぱらからなの?』
ディースは12歳の子供だからだ。夜は寝なくちゃいけないから。
『元気な子供たちはその場に何人いるの?』
2人です。
『元気を失くしている子供はその場に何人いるの?』
1人もいませーん。
『どの声がディースの声か、など書く必要性はない』
じゃ、帰ったら消します。
※ブロッカーはお話の途中でも容赦なく質問をぶつけてきます。
非常に不快でしたが向こうへ渡るためです。
私はイセカイノサクシャです。ググっと堪えて丁寧に受け答えします。
◇【本文】
「ディース、ちょっと待て! おまえ肝心のアレはちゃんと持ってんだろうな?」
自宅の戸口をたったいま開けようとしたディースの勇み足を止める様に、後ろから声を飛ばす少年が居た。
「えっ?」ディースはすぐさま振り返った。
と同時に少年はディースに駆け寄って行き、ディースの衣服のポケットに探りを入れた。
その手はいたずらにディースの身体をくすぐる。ディースは思わずのけ反った。と同時に赤ん坊の産声にも似た笑い声を町の片隅で轟かせた。
◇
『ディースはどうして勇み足だったの?』
彼にとって嬉しいニュースがあったから。
『後ろの少年は声を飛ばせる能力者なのね?』
いいえ、声を掛けただけです。
『どうして後ろから? 話し合ってるんじゃないの?』
嬉しいニュースを祖父に早く聞かせたくて彼は急いで家に入る所でした。
『肝心のアレはこの後でてきますか?』
ええ、もうすぐ。
『振り返ったディースは「えっ?」と言ったの?』
心の声です。
『心の声が聴こえる時代に入ってきたんだね』
彼は、ただ驚いただけです。
『ディースのポケットは前、後ろ、衣服の何処についてるの?』
上着の前です。
『ディースのテンションって高まってるよね?』
はい、かなり。
『後ろの少年の声は大きかったの、小さかったの?』
すぐ後ろなので普通です。
『ワンチャン聴き取れない可能性ってないの?』
すぐ後ろだし、ワンチャンなら聴きとれる側でしょうか。
『これ聴きとれなくて振り向かなかったら、後ろの少年はやり方かえるの?』
もう一度声を掛けます。
『その頃には家の中でしょうし、一緒に付いていける感じ?』
祖父が厳しい人物なので友達は家に上がれません。
『後ろの少年の声に、ディースはすぐさま振り返ってるね』
はい。
『その後の分段の「と同時に」と「すぐさま」は表現として何が違うの?』
すぐさまはすぐ。同時にはのけ反りながら。
『……紛らわしいので』
じゃ、帰ったら消します。
『衣服は紙切れ同然に薄っぺらいの?』
夏ポンチョです。
『探りをいれたポケットは右、左どっち?』
衣服の両サイドにあって、後ろの少年が両手を片方ずつ突っ込んでいます。
『後ろの少年はいたずらがすきなの?』
遊び人志望なんです。
『それ誰が知ってるの?』
私はイセカイノサクシャです。説得力は保証します。
『のけ反ったディースは感じやすい子供なんだ?』
後ろの少年に身体をくすぐられたからです。
『ディースが笑い声を上げたのは、のけ反った後なのね?』
いいえ同時です。
『ディースは赤ん坊の鳴きまねが特技だったりする?』
たまたま甲高い声が出てしまっただけです。
『ディースの家は町の片隅にあるんだね』
……帰ったら建て直しておきます。
『建て直しというより出直しでしょう、家だけにね』
大きなお世話です。
おや、目の前の門番の顔色がすこし青くなった気がします。
疲れたのでしょうか。
それとも苛立っているのでしょうか。
額に浮き上がった青筋というやつがピクピクしています。
※担当者は異世界の門番です。
HPはいくらあるんでしょう。
ダメージがいくら入ったかまだ分からないですが。
確実に削れたと思います。
応募規定にはこうありました。
門番に、書いた物語をすんなり飲み込まれると門前払いを喰らいます。
質問をぶつけさせて答えるのが希望者のファイティングスタイルになります。
私は冒頭から質問責めに遭いました。
ことごとくお答えしましたが。
私の書いた物語はまだ始まったばかりです。
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