project-S この中に1人、男がいるっ!?

人生

第1話 これまでのあらすじ




 ~これまでのあらすじ~



 2010年代終盤、世界を未曽有のパンデミックが襲った。


 そのウイルスは男性にのみ感染し、感染した男性は理性を失い狂暴化、世界はすぐさま世紀末のような様相を呈することとなった。


 ゾンビのようになった感染者たちが健常者を襲い、接触感染によってウイルスは老若男女問わず広がっていった。国は秩序を失い、あらゆるインフラはその機能を停止した。


 それから数年――大国が核の炎で自滅し、通信網は機能不全に陥っている。外国の様子は分からないどころか、ニホン国内の生存者がどれだけいるかも分からない。


 もしかすると、自分たちが最後の人類なのかもしれない――と、ニホンの片隅、跡理学園という安住の地に暮らす人々は考えている。


 2010年代初頭に起こった様々な災害、テロ……今後そうした災厄が起こった際に「避難設備」として機能するよう、特殊な学園施設がニホンの各地に設営された。そのうちの一つが跡理学園である。


 生き残った人々は安住の地を探す旅の果てにその学園にたどり着き、中に蔓延っていた感染者を排除、先に住み着いていた人々との対立などを経ながらも、ようやく「平和」と言えるだけの状況を得ることに成功したのだった――


 ――が、




「総長、大変です」


 異変は唐突にやってきた。


 いや、その予兆はあったのかもしれない。


 学園の管理運営をする生徒会による定例会議のさなかだった。書記を担当していた少女・片喰かたばみヒナタが「気分が悪い」と言い出したのだ。最近なんだか丸みを帯びてきた彼女だったから、さてはまた変なものでも食べたんじゃないのかアハハとみんなあまり心配してはいなかった。


 ヒナタが保健室に運ばれ、定例会議はそのまま終了。さてこれからどうしようかと、本日のスケジュールを生徒総長の結狩ゆうかりミキサがチェックしていた時のことである。


 生徒会室のドアを開け現れたのは、養護教諭の凛堂りんどうチエルである。

 養護教諭といってもこんな時代なので教員免許を持っている訳ではない。医師免許も持っていないが、保健室で医療担当を務めている。それだけの知識を持っている、この学園でも必要不可欠の人材の一人である。


 そんな彼女が、血相を変えてやってきた。かろうじて機能している内線電話を用いず、直に生徒会室までやってきたのである。


「もしかして、ヒナタに何かあったの? 未知の感染症? 私も隔離対象? それともついに科学部が保健室を?」


 伊達に生徒総長の肩書を持っている訳ではない。チエルの様子を見てすぐに緊急事態だとミキサは察した。


「いえ、どちらでもありませんが、ヒナタさんが、その……――妊娠、しました」


「……ニン・シン?」


 魚か? それとも人の名前? やっぱり未知の病気?


「妊娠、です」


「…………」


「最近、お腹が大きくなっていたわよね。あれ、妊娠してたの。あの子のお腹の中には今、赤ちゃんがいるのよ」


 ミキサは思考停止する。


 彼女は様々な困難を乗り越えここまで皆を導いてきた功績から、学園のトップである生徒総長に選ばれた。しかし、彼女が生まれ育ったのは終末を目前とした混沌の時代である。まともな教育など受けていようはずもない。


 しかし、なんとなくだが分かることもある。


「妊娠って、あれよね? 男と女があれしてこれして、人類が誕生するっていう……」


 この学園には女性しかいない。男性はみんなゾンビになってしまった。つまり、このままいくと人類は減る一方で増えることは決してないのである、

 そのため、「世界のどこかにあるはずの『精子バンク』を探しにいくべきです! それが残された人類である我々の最優先事項!」と、予算会議の場で常々主張する生徒まで現れている。ミキサが「妊娠」なる現象について掻い摘んで知っていたのもそれが理由だ。


「それって、つまり……」


 知識はなくとも、馬鹿ではない。だからこそここまで生き抜いてきたのである。


「この学園に、男がいるっていうこと……!?」



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