第6話 友人

「愛生!」


 友達の声も目の前で響いた鈍い音によってかき消されてしまう。痛みも感触もない。うっかり倒れこんでしまうと思っていたけど感触すらなかったから死んでしまったのかと思った。

 でも違う。


 目を開けると私ではなく、河上君が倒れている。


「え?」


 思わずそう漏らし頬を触るも何ともなかった。熱も、痛みも感触も、何もない。

 なのに、自然と涙が溢れてきた。


「愛生」


 突然膝を落としてしまう私に皆が寄ってきてくれた。でも、心配されるのは彼の方なのに。

 殴った男は自分が殴った筈なのに手を挙げてしまったことに自分自身驚いている。

 その拍子に。


「おい誰か先生呼べ!」

「今人が殴られた」

「まじかよ、やべー」


 口々にそんな声が上がっていく。私の大きな声で呼んでいたこともあって多くの生徒がこの暴行を目撃した。

 すぐに先生が駆けつけてきて事情を聴くためにその教室にいた人たちが一人ずつ生徒指導に連れられた。



 結果として私たちはそこまで怒られなかった。手を出したわけでもいじめをしたわけでもないから当然だったけど、もう少し言い方をきをつけろと注意された。

 いじめをしていた彼らは、もう少し深く話を聞くそうだった。主犯の子はもしかしたら停学か退学は免れないと皆から聞いた。


「みんな本当にごめん」


 私は皆に謝った。勝手な行動をして皆を巻き込んでしまった。何も考えてなかったわけじゃないけど、私のせいで皆に迷惑をかけてしまった。


「私のせいで」

「愛生のせいじゃない! だってあんなにかっこよかったもん」

「うん。正直愛生ってあんまり感情表に出さないと思ってたから、びっくりしちゃったけど」

「みんなやっぱり愛生が好きだよ。でも、ちょっと心配した」


 みんなに迷惑をかけたのに、なんでこんなに嬉しいんだろ、あったかいんだろう。バカだ私。


「みんなごめん」

「ほんとに何もなくてよかったよ」

「謝らないで、愛生は良いことしたよ」


 また泣いてしまう私にみんなが駆け寄ってくれて、抱きしめてくれる。じんわりと心が満たされていくようだった。こんなにも温かい友達に会えたことが心から嬉しいと感じた。今日の出来事がなければきっとこんな簡単なことにも気づかなかったんだな私。


「私、みんなに話したいことがあるんだけど」


 時間も遅いけど、快くみんなは了承してくれた。別に明日でも、いつでもいいのに。みんなの時間を割いてでも、今言いたかった。


「私、中学の頃いじめられてたの」


 ずっと怖くて逃げていた自分と決別するように私はそう切り出した。

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