第1章 第4話 噂

「いやいや、ちょっと待ってくれよ会長。どうして俺があんなちんちくりんとやり合わなきゃならないんですか!」




  莉音がいなくなった生徒会室で、明らかな怒りを持った将が玲奈に食いついていた。


  事の発端は、自己紹介の時の玲奈の一言だった。ただでさえイライラしていた将の怒りは加速する一方だった。




「それは戦えばわかる。それに、君は勘違いしている。魔力値は実力を測る上で最も有用。ただし、100パーセント正しいとはいえない」


「だからって!あそこまで低いのは無能以外の何物でもないですよ!どうしてそこまでしてあいつを擁護するのですか!?」


「無能……無能と言ったのか?」




  一瞬にして玲奈の目から光が消え、どこまでも広がる虚無の怒りがそこに宿った。




「お前はあの子の……莉音の何を知っている?」




  いつもと一切変わらない口調であっても、そこに孕まされたものの重さは果てしなかった。対峙している将はもちろんのこと、近くにいた心ですら軽く恐怖してしまう程に。




「何も知らないのに、勝手に決めつけないで。それに、明日戦えば分かるわ。将の見定めがどれほど間違っていたのかが」


「まぁ、わかった。あんたがそこまで言うのなら、俺も全力を持って応えるとしよう」


「それがいいわ」




  たった3人だけの生徒会室に残った微かな魔力の残滓が、その場で起きた騒然たる修羅場を表していた。


  莉音がその軽い騒動の正体に気づいていたのは、本人以外知らない話。






 ・・・






「なぁなぁ!お前ら聞いたか!?黄金の狂王子と新入生が模擬戦をするらしいぜ!」


「あ、俺も聞いた!しかもあれだろ?なんでもありのあれって話だろ!久しぶりに黄金の狂王子の戦いが見れるぜ!」




  あれ?噂が広まるの早くない?あ、だから今日の視線が好奇に満ちてるのか。


  まぁそれはそうとして、あの人そんなに有名なんだ。なんか無愛想で嫌な人って印象しかないんだけど……




「ねぇ、将ってそんなに強いの?」


「え!?将様はここの学園の序列3位よ!カッコイイし、強いし!」


「へ〜。どれくらい強いの?」


「将様は先生顔負けの魔法使いなの!それに加えて近接戦闘もできるの!前までは2位だったんだけど、いちごちゃんに負けちゃったのよ。でも、その試合もすごい接戦で、剣先1本の差だったの!それでね!」


「熱く語ってるとこごめん。今日戦う相手にそこまで情報漏らしちゃっても大丈夫なの?」


「あ!」




  気づいてなかったのか。それとも気づいてても続けていたのか。どちらにせよこの子天然すぎるな。こちらとしては情報面で圧倒的優位に立てたというわけか。


  いや、ここの3位ってことは情報なんてほとんど無意味なはず。頭から無くそう。夕刻に来たる決戦に向けて、全ての準備は整えてきたつもり。




「さすがに、使わなくてもいいよね……」




  誰にも聞こえないように呟いたその言葉は、きっと裏切られることとなる。


  そんなことは、今の私に知る由もなかったのだけれど。


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