戦場に咲く赤き青薔薇
九十九 疾風
第1章 白夜学園編その①
第1章 プロローグ
真っ黒な空の下、人と人とが互いの意地とプライドを賭けた戦いを繰り広げていた。
ある者は剣で戦い、ある者は「魔法」と呼ばれる力を用いて戦っていた。
そこに秩序と呼べるような物は無く、あるのはただの殺意、敵意、憎悪のみ。争いが争いを産み、憎しみが憎しみを育むだけの場所。それが戦場。
そんな血なまぐさいだけの場所に、一輪の花が咲いていた。
「はあぁぁああ!!」
少女は水色に煌めく髪を振り回し、自分の体格の5倍近くある屈強な戦士達を血で染めていく。左手に持たれた剣1本で、敵兵全てを
──────────
また、あの頃の夢……か。
首筋を嫌な汗が伝っていく。最悪の寝起きだ。
「もう2年も前のことなのにね……」
少し自嘲的に言うと、薄暗い部屋を見渡してから布団に潜る。いつもならすぐに来る眠気が、今日に限って全く来る気配がない。それどころか、外に別の気配を感じた。
誰?敵……って訳じゃなさそうだけど、こんな場所に来る人なんて本当にいるのかな?
外の気配は動かない。じっとしたまま入り口の前にいる。まるで何かを待っているかのように。
そもそも、今私がいるのは山奥にある小さな小屋だ。迷い込んだって可能性も無くは…………いや、それはありえないな。
「魔力適正値が高い。多分、相当やる」
わざわざここまで来た目的はなんだろう。私に喧嘩でも売りに来たのかな?もしそうなら相当な命知らずだけど……う〜ん、目的がわかんないな。
「会ってみないことにはわからない、か。頭も動くようになってきたし、行こかな。ふわぁ〜」
大きな欠伸をしながら私は扉を開けた。そこには、腰まであるポニーテールを垂らしながら綺麗な姿勢で立っている女性がいた。
「…………誰?」
「はじめまして桜崎さくらざき
私が敵意を持った目で見ても動じることなく淡々と要件を伝えていく。かなりの手練だろう。いや、それ以上にどうして私の名前を知っていて、今ここにいることを知っているのだろうか。
「私が理事をしている学園に入学しませんか?」
「はぁ……あなたはそんなことを言うためだけにわざわざ?」
「そうですね。結構辛かったです」
相手が私よりも遥かに身長が高いせいで常に見上げなければいけない。ちょっと首が痛い……
「じゃ、1つ質問。あなたの誘いに乗るかどうかはその答え次第」
試してみよう、この人を。こんな所にまで私を探しに来た人なら、その価値はあるかもしれない。
「終末戦争。あなたは何を知っている?」
もう二度と口にすると思っていなかった忌々しい戦争。今でも残る「殺す」感覚。死ぬか殺すか、そんな世界を生きていた記憶。私は、目の前の女性にその全てをぶつけた。
「これ以上は言う必要は無いと思いますよ。『紅き青薔薇』さん」
能面のように感情が無かった顔には不敵な笑みが浮かんでいた。私の中で全てが繋がった。
「ねぇ、私をその名で呼ぶってことは、それなりの覚悟はしてるのよね」
気づいたら私の口角が上がっていた。久しぶりに感じた高揚感。その中に私は立っていた。玲奈と名乗った女性の目を睨みつけるように見た。
「ふふ……面白いじゃない。それで、これから私はどうすればいい?」
心地よい高揚とともに1歩を踏み出す。暗く、冷たく、血なまぐさい世界から、私は今踏み出すのだ。
真っ白なまま放置された、人生という名のキャンバスに色を付ける旅が───
今、始まる。
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