カウントダウン

因幡寧

第1話

 5から始まるカウントでスタートする。


 …………だがふと、なぜ5からなのだろうと疑問に思った。いつもはどうだったろうか。記憶をさかのぼってもどうにもその瞬間はぼやけていた。自分にとってそれはあまりにも意識の外にあったのだろう。


 4。


 昔から、一度気になったことで思考が引きずられるたちだった。あるいはあの時もそうだ。高校時代、あるテストの時間に先生が急いで教室に飛び込んできたことがあった。先生は驚く僕たちを見てはっとしたような表情を見せると、僕たちのテストを監督していた先生を呼び寄せてともに外に出て行ってしまった。先生は気にするなと言葉にしてその後もテストが続けられたが、どうにも自分は集中しきれずにそのテストの点数だけ赤点になってしまったのだ。


 3。


 テストが終わった後、一部の生徒が真相を確かめようと先生に詰め寄っていたのを覚えている。僕はそれに加わるほどの勇気がなかったから、あとからことの真相をその列に加わっている友人に聞こうと思っていたのだ。そうだ、そうだった。あのちょっとした事件の真相を、僕はまだ聞いていないじゃないか。……だが、あれからもう長い時間がたっている。友人はそもそもあの事を覚えているのだろうか。


 2。


 まあでも、聞くこと自体幸い難しいことではない。なぜなら今その友人は自分と同じ空間にいるからだ。毎年この日だけは集まろうとその友人が提案して、それからずっとこの集まりは続いている。本来なら年の終わりなんてのは、家族で過ごすものなのかもしれないが……。あるいは僕やこの場に集まる誰かに家庭ができたならこの集まりもなくなるのかもしれない。――というより、そうだ。いつもはどのようにカウントダウンしていたかを思い出そうとしていたのだった。


 1年目はどうだっただろうか。ちょうど僕たち全員がお酒を飲めるようになって、ほとんど全員が酔っ払っていたような気がする。今だって大して変わりはないが、あの頃よりはお酒というものに対する付き合い方がわかってきたからか、昔ほどひどい酔い方をしている奴はいない。僕だって今はそこまで酔っていない……はずだ。――あれ、そういえばあの事件のテストは赤点なんてレベルのできの悪さではなかったような気がしてきた。僕は先生の突然の教室への登場に驚いて、そのままうんうんと悩んでいたせいで、確か名前を書き忘れたんじゃなかったか。それでたあしか


 「0!」点に――。パン!パン!「ハッピーニューイヤー!」


 破裂音が周囲から聞こえてようやく自分が乗り遅れたことに気づいた。慌てて自分の手の中にあったクラッカーのひもを引く。遅れて一つだけ鳴り響いたその音に少しだけその場に沈黙が落ちて、それから友人がそばに近づいてきた。


「またぼーっとしてたのかよ。飲みすぎじゃないかぁ?」


 友人は顔を赤くしながら僕にそう笑いかけてきた。――ああそうだ、いつもは10からのカウントダウンだったじゃないか。そんなことをいまさら思い出しながら僕は照れ隠しで同じように笑うことにした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

カウントダウン 因幡寧 @inabanei

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ