袮月の山

袮月の山に 娘狸が一匹

「妹を探しているの」

遠巻きにする山の衆一匹一匹に

問い 問い

飛びくる無数の小石をはたきながら やがて水上(みなかみ)の古滝に至り

清水しみる苔むした岩へ腰掛ける 銀の毛並みの若ものに

「妹を探しているの」


糸目を開いた若もの 赤いそうぼうに

木漏れ日に照る 黄金色の毛並みが映り

心の3つ数えたのち 返し

「ああ半刻前、子狸を」


娘のほおが染まり

「その子狸、おれと同じ茶色の毛並みでしょ」

若もの 返し

「お天道の下じゃ、稲穂みたいにきらきらしてるよ」

滝を指差し

「あそこの裏から行ったよ」

娘はかわらを伝い

瀑布の裏を覗き込み、

「…おぉ」

隧道の延びるを見て 若ものを振り返り

白い歯を見せて笑い

「ありがとう 恩に着るよ」


秘密のみちへ駆け出した娘の背が栗色に「もどり」、

しかし

若ものの赤目は細められずに

「また、   …どうだろ」


袮月の山に

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