始まりの日

譚月遊生季

始まりの日

 始まりがいつだったのかなんて、よく分からない。

 ただ、俺にとっての「始まり」は、間違いなくあの日だった。


 その日、俺は家に帰る途中で、いつものように友達とかけっこをしていた。

 勝率は五分五分。いや、俺の方が少しだけ上だったかもしれない。

 その日は友達の方が先を走っていて、もう少しで追いつけそうだった。


 でも、順位が入れ替わることはなかった。


 俺より先を走っていた友達は音もなく降ってきた矢に射抜かれて、俺も肩を魔弾に撃ち抜かれた。

 敵は手慣れていて、容赦などなかった。

 奴らは子供も老人も関係なく、ただただ俺達を殺すことを楽しみ、明確な悪意によって街は散々になぶられた。


 異種族の侵攻、とまとめてしまえば話は簡単だ。

 俺は魔弾に撃ち抜かれた肩を抑えて、逃げに逃げた。

 家族や友達のことを気にする余裕なんかなかった。


 逃げて、逃げて、逃げて。

 辿り着いた山の上から、蹂躙じゅうりんされ尽くした故郷を見た。

 燃え盛る炎の中に、俺の家も呑み込まれていた。


 気付かぬ間に流れ落ちた涙が、走り続けて乱れた毛並みを濡らした。


 獣人と人間のいさかいは長い。

 始まりがいつだったのかなんて、俺にはよく分からない。……だけど、俺にとっての「始まり」は、間違いなくあの日だ。


 あの日から俺は、人間てきを皆殺しにするため生きている。

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始まりの日 譚月遊生季 @under_moon

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