(一)-5

 シトシトとした雨に濡れながら汎人がそこに近づくと、黒縁丸眼鏡のレンズ越しにそれがなんだか、徐々にはっきりとしてきた。

 それは、肘から上の人間の腕であった。

 すると急に汎人の上から降る雨が止み、同時に振ってくる雨粒が何かに当たる音がした。秀美が傘を持って汎人にさしていたのだった。

 一六二センチ程の身長に対して一七四センチの秀美が、汎人の頭の上に傘を掲げていた。こうすることで汎人に降りかかる雨を避けることができる面積を増やすと同時に、汎人の視界を邪魔しないようにしていた(実際には、秀美は普通に傘を、ほとんど持っていただけに過ぎなかったが)。


(続く)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る