第16話 妖気の獲得
砕けもしないし、舐めても溶けるということはなく、しばらく口の中で遊ばせていたが、石の形が残り続けるだけであったので、恐怖を感じつつも、覚悟を決めて飲み込んだ。
異物を飲み込んだ不快感はすぐさま消えて、すっと溶けたかのような錯覚すら覚えた。その直後に胸の辺りが熱くなりだす。炎上でもしているかのようで、熱さが痛みへと昇華されて、痛みでまともに立つことすらできない。
うずくまって、死の未来を感じながら、キツネに対する恨み言を呟きつつ、この痛みを堪えていると、スッと熱が引いていく。まるでそんなことなどはじめからなかったかのように、俺の体は健康そのものであった。
ギロリとキツネを睨みつけていると、まるで意に返していないようで呑気に尻尾を揺らしながらこちらを見つめているばかりであった。
「ほら、死ななかっただろう。わしと妖力の繋がりがあるのだから、そんなわけがないというのに、騙されたなど被害妄想が過ぎる」
「実際熱くて痛かったのは事実なんですけど。この痛みのせいで死ぬ可能性すらあったと思うんですけど、それはどうなんですかね」
「痛みがないとは微塵も言っていないからの。死ぬようなことが死ななくなるのに、痛みまでもなくなるとは、お気楽すぎやせんか? もし、そんなことで死ぬのであれば、むしろ貧弱すぎてダンジョンで長生きは出来ないの」
やはり、このキツネは最悪である。ヒトではないのだから当然なのだろうが、良心なんてものは当たり前のようにどこかへと捨ててしまっているようだ。
元から存在していなかった信用とか信頼とか、そういったものがさらに減り込んでいく。もしこいつを殺せるとあれば殺していたかもしれない。
だが、明らかに人智を超越しているのだと強烈に理解させられてもいるので、それは出来ないとしっかり理解していた。
「ほれ、どうだ? 身体の中の妖気を感じ取れるか?」
ゾワッと、身の毛がよだつ。身体が震え上がり、その原因へと視線を向ければキツネから、悍ましくこの世のものではない、なんと形容するのが相応しいかわからない、いうならば煙のような、蒸気のような、そんな形をした怨念と受け取るに相応しいものが噴き出ている。
それとほぼ同時に、俺の中にも同じものが渦巻いているのを感じ取った。これが妖気なのかと、確信するには充分であった。というか、俺が使えるようになった力とは、これほどまでに不快なものなのか。
それを知ったことで、こんな力を使っても大丈夫なのかと不安になる。最期には呪い死ぬなんてことはないだろうか。そんな未来がふとよぎった。
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