冬休みが終わる

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冬休みが終わる

 冬休みが終わってしまう。

 アラームも彼女からのおはようLINEもガン無視で昼まで寝ていられて、母さんが用意してくれた食事を食べてから深夜までずっとオンラインゲームに興じていても平気な冬休みが。学校という牢獄から離れていても誰にも怒られない、天国のような時間が。

「……っと。あー、やべぇ。宿題のこと忘れてた」

 久しぶりに会った友人とハンバーガーを食べている時に、嫌なことを思い出してしまった。しかし長期休みと言えば避けては通れないのが宿題だ、仕方ない。

「ははは、ご苦労さん。俺はそんなのもうとっくに関係ないからな」

 友人が余裕の笑みを浮かべる。そりゃあそうだろう、こいつは俺とは違う。羨ましい。

「くっそー、また忙しくなるのか……。嫌だなあ」

「まあまあ。休みが明ければ彼女にも会えるんだろ。いいじゃんか」

「それはそうだけどな、でもあいつと付き合ってるのは誰にも内緒だからさ。お前くらいだぜ、知ってるの」

 今の彼女とはもう二年の付き合いになる。最初はなかなか心を開いてくれなかったのだが、親身になって色んな相談に乗っているうちに情が移ってしまい、いつのまにかそういう関係になってしまっていた。

「まだキスもしてないんだったっけ? すげえよな、純情かよ」

「からかうな。そんな簡単にいかねぇんだよ」

 彼女はうちの学校のお堅い制服が超似合う清楚系で、親も厳しいと聞いている。休み中に異性と会うなんてのも考えられない話らしい。それが理由の全てではないが、彼女とは学校が始まらないと、会うこともできない。

「ま、可愛い彼女の存在を心の支えにして、休み明けも頑張ってな」

「おうよ。……あ〜、それにしても学校行きたくねえ」

「しょうもねえな」

 冬休みが終わってしまう。


 冬休みが終わった。

 校長の長い話の後で休み中に活躍した部活の生徒が表彰されたりなんだりして式が終わり、体育館からぞろぞろと教室へ向かう列ができる。俺はそのしんがりをのろのろと歩いていた。

「アキラ君!」

 そっと呼びかけられて横を見ると、彼女が俺を見上げていた。校則を守った綺麗な黒髪が、肩にふわりと揺れている。髪と同じく綺麗な目がきらりと光った。

 思わず笑いかけてしまいそうになったが、慌てて頰を押さえた。

「おま、誰かに聞かれたらどうすんだよ……他に人がいる時はその呼び方するなって言ったろ」

「はーい。ごめんなさい、先生」

 彼女はぺろっと舌を出し、廊下を小走りで去って行った。

「まったく……」

 その背中を見送って、ようやく新学期の始まりを実感する。

「あー……宿題の添削、したくねぇなあ」

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冬休みが終わる tei @erikusatei

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