走る人

寝癖のたー

第1話 スタート

呼吸が乱れ、脇腹がつっている。


 吸って。


 吸って。


 吐いて。


 吐いて。


 この呼吸のリズムだけを考える。


 余計なことを考えれば呼吸が乱れる。


 余計なことを考えてはだめだ――と考えることも余計なこと……?


 思考が乱れ、呼吸が乱れた。


 「ハッ!」


 心の隙間に忍び込んだ風が、私の力を奪った。


 不必要に多く空気を肺に取り込んでしまい、かすかに脱力する。

 

 地球がいつもより私を強く引っ張る。


 思わず寝転がりたくなる。


 だけど今は走らないといけない。


 スタートが切られた今、立ち止まることは許されない。


  私は目の前にあるゴールに向かって必死に走った。


 ゴールに着けば、この地獄から逃げ出せる。


 ゴールに着けば、私は自由になれる。


 ゴールに着けば、私は生きることができる。


 そう信じて、私は走った。


 しかし、私の後ろからは、追いかけてくる者たちの足音や声が聞こえた。


 「捕まえろ!」


 「逃がすな!」


 「殺せ!」


 彼らは私を殺そうとしている。


 私は何も悪いことはしていない。


 私はただ、自分の意志で生きたかった。


 それだけなのに、なぜ私はこんな目に遭わなければならないのだろう。


 私は涙を流しながら、走った。


 ゴールはもうすぐか?



 私はもう少しで、救われる。と、自己暗示をかける。


 そう思った瞬間、目の前に男が立ちはだかった。


 「やあ」


 私は呆然とした。



 これが、私の運命だったのか。



 私は――


 

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